Ironic Honey
「あの…、今はお付き合いされている方も、好意を持たれている方もいないと仰っていましたよね?」


 千織さんの問いかけに思わず目を丸くする。確かにそんな話はしたような気がする。お互いの恋愛観とかを話す流れで。

 だけど、それが一体何の関係が…。


「確かに言いましたが?」

「だったら、俺と結婚しませんか」

「…ええ!?」


 店内で思わず大きな声が出た。予想外の責任の取り方だった。金銭的な話を持ち出してくると思っていたのだけど、まさかの結婚。

 確かに好きな人もいない。交際している人も。これからの金銭的なことを考えても、確かに結婚という形がいいのはわかる。

 だけど、この人はスーツの仕立て屋をしている会社で、後継ぎや家柄にこだわる人ではないのだろうか。

 思わず唖然としていると、千織さんはふっと笑みを零す。


「あの…、本気ですか?」

「ええ。考え方も合いそうだし、何かあった時にすぐに行動ができて、守れるのはこのやり方かなと。それに、お互いうるさくも言われずに済みますし、メリットもあるかとは思いませんか?」


 メリット。言い方も愛なんて到底ない。まあ、元々恋愛は諦めていたし、この人の手を取っておくのもいいのかもしれない。それに、この人はきっと後継ぎがいればそれでいい。

 私にそんなに選択肢も残されていない。
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