Ironic Honey

「普段は何されている方ですか?」

「テーラーを」

「テーラーって?」

「スーツの仕立て屋のことです」


 初めて知った。スーツの仕立て屋をテーラーと呼ぶことなんて。

 普段スーツは有名なチェーン店でしか購入しないけれど、もしオーダーメイドでこだわりの一着なんてあれば格好いいかもなと思った。彼はちょうど今スーツを着ていて、確かによく見ると品のある、質のいいネイビースーツを身に着けている。


「それは、ご自身の会社で作られたものですか?」 

「まあ、そんなところです」


 彼のことを見ていると腕時計もかなり高いものを着けている。私でもわかるブランドロレックス。かなり成功しているらしい。頭のてっぺんから足先まで隙のない身だしなみに、これだけでもかなり評価は高かった。


「あの、名前を聞いてもいいです?」

「ああ、天野《あまの》 聖菜《せいな》です。そちらは?」

「長谷川《はせがわ》 千織《せお》です」

「千織さん? 珍しい名前ですね」

「よく言われます」


 その落ち着いた返しも嫌いじゃない。こんなに全てにおいて、気になる人は初めて。だけど、私は恋をする気はない。だから、こうして口説きもせず、後十歳くらい若ければなあ、なんて考えもした。


「バーって、やっぱり皆さん出会いを求めて来られるんでしょうか?」


 重く口を開いたかと思えば、そんなことを馬鹿真面目に問いかけてきたのが、なんだか笑える。答えは人による。一択。人間がすることに一つだけの正解はないから、私は「どうでしょう」と言葉を濁した。
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