Ironic Honey
 会社に着くとすぐに部長には相談した。そのあと営業は引き継ぎ、事務に徹することになったのだが、既に肩身の狭い思いをしている。

 私は戻ったオフィスで自分の担当先へ案内メールを打ちながら、考え込んでいた。このまま事務に徹すれば、営業に戻れたとしても二年後。その頃には何もかもわからなくなっており、顧客もいない。


「天野、取引リストもらえる?」


 そう声をかけられた方を見ると、小田原だった。彼が私の担当を引き継ぐ。彼は普段怜奈と常にトップを競い、常に一位を取り続けるエースだ。


「怜奈に怒られちゃうわね。また小田原に持っていかれたって」

「まあ、運も実力のうちっていうことで」

「それ絶対怜奈の前で言わない方がいいわよ」


 そういいながら笑いあうと、リストをメールで添付する。

 小田原なら何も心配することはない。むしろ復帰した後、私はこのままやっていけるのか不安。


「てか、子供いるんだって? おめでとう」

「おめでとうって言ってくれるんだ?」

「言うだろ。おめでたいもんはおめでたいし、その子も罪はない。生まれてくるなら祝福されたいだろうよ」


 小田原の言葉を聞きながら小さく「そうよね…」とつぶやいた。この子が出来てから、私は喜べていただろうか。不安や心配ばかりで、私が一番喜んでいなかったかもしれない。

 千織はこの子に対してどんな感情を抱いているのだろうか。
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