Ironic Honey
「あなたがいると、私の家にある家具のほとんどが小さく見えるわね」

「天井が低い」

「喧嘩売ってるの?」


 半笑いでそういいながら千織の前にコーヒーを置くと、彼は笑いながら「ありがとう」と言い、マグカップに手を伸ばす。

 確かに彼の家ほど、広くも高さもない。家具は全体的に彼のものと比べるとちまっとして見えるし、彼からすれば全てが小さいかもしれない。

 だけど、私からすればこの程度の大きさや広さが落ち着くのだ。それに、あなたがいると狭いわねなんて、笑いながらくっつくのも悪くない。

 素直になれない私は、理由がないと近寄ったり、甘えたりもできない。そんなヘタレなのよ。千織がそれに気付いてるか分からないけど。

 そう思いながらマグカップを両手で持ち、ふぅふぅと息を吹きかけ、冷ましていると、彼が「でも…」と声を発した。


「いつもより君が近くにいるように感じる」


 そう言って身を寄せ、肩を優しく抱き寄せる。

 今、同じこと考えてた?

 そう問いかけることもできなくて、「何それ」と笑う。

 こんな時に可愛くなれない私に、本当に呆れる。それに比べて彼は物凄く素直なのに。


「悪くないな。狭いのも」

「………うん」


 そう短く返事をし、マグカップを置くと、千織はゆっくり手を伸ばし、お腹の方に向かう。

 触れるぞ、と確認するように、ゆっくり、ゆっくり。
< 57 / 132 >

この作品をシェア

pagetop