Ironic Honey
 それから週末。自分の実家には年末年始以来、久しぶりに帰ってくる。

 その時とはわけが違って、今はひどく緊張している。実家でこんなにも緊張したことはない。ましてや、結婚挨拶なんてすることになるなんて、思ってもいなかったし。

 深呼吸をしていると、千織は首をかしげてこちらを見ている。


「どうした?」

「…入りたくないなと思って」

「珍しい。怖いもの知らずな君が?」

「そんなことないわよ。泥棒も怖いし、お化けも怖いし、高いところも怖いし、災害も怖い」

「はは」


 私の言葉に笑って、手の甲で口を隠している。最近こんな風に口を開けて、声を出し、笑うことが多い気がする。

 感情豊かに随分なったなと思った。私もその姿に少し口元を緩ませ、インターホンを押す。中から足音が聞こえ、すぐに靴の擦れる音、鍵に手を掛け、回す音が聞こえる。

 ドアが開くと、母が笑顔で出迎えてくれた。


「おかえり」

「ただいま」


 母はすぐに千織に目をやると唖然としている。


「まあ、大きいのね…」

「初対面に向かって一発目で大きいのね、ってやめれる?」


 そう呆れ笑うと、千織も笑っていた。


「初めまして。長谷川 千織と申します」


 そういって名刺を渡す千織に、母はそっと受け取り、丸くなっていた眼をさらに見開く。
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