Ironic Honey
「Vincenzo 代表取締役って…ええ!?」

「ご存じいただいていて、光栄です」

「大きな会社…、まあ、すごいわね…。あ、玄関で立ち話もなんだから、上がってください」

「お邪魔します」


 母は彼に対して何かを言うことはないとわかっていた。問題はここからだ。

 リビングへと進むと父は険しい表情で腕を組み、待ち構えていたが、千織の姿を見た瞬間軽く目を見開いた。

 それもそう。父は電話の時、勘違いをしていたのだ。


『どうせろくな仕事も就いていない、毎晩遊び歩いているようなろくでもない男に捕まったんだろう! 絶対に認めないからな』


 否定しても信じないであろうと思っていたから、否定もせず、実物の千織を見てもらうことにした。父の前に現れた彼は、質のいいチャコールグレーのスーツに身を包んでおり、きっちりとヘアセットをしている。手首には立派な腕時計。

 彼がかなり稼いでいて、きちんとした職に就いていることはこれで分かったと思う。


「Vincenzoの社長さんですって! すごいわねぇ」


 その言葉でさらに唖然。先ほどまでの険しい表情が間抜けな面をしている。

 千織はその間に母に手土産を渡し、その後父の前の席に座る。母は手土産をもってキッチンに消え、そのままお茶を入れてくれていた。
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