Ironic Honey
 父は母から名刺を受け取り、しばらく見つめていたが、こほんと小さく咳ばらいをし、再度険しい表情に戻る。


「どんないい企業を経営していようが、順番が逆になるような男は認められない。そもそも、交際する前から手を出すなんて、不誠実だろう」

「何言ってんのよ。今時普通だから!」

「それで子供出来るのが普通か?」

「それは、いくら気を付けていても避妊が100%じゃない限り、そうなることだってあるでしょうよ!」


 私と父が言い合いをしているところ、千織は静かに頭を下げた。


「おっしゃる通りです。順番を違え、大切な娘さんを傷つけるような事態になってしまったこと、弁解の余地もありません。深くお詫び申し上げます」


 父はその姿を黙ってみていた。母はその間静かにお茶を入れる。

 この人がプライドも何もかも捨てて、両親に頭を下げてくれるなんて思いもしなかった。


「責任を取る、それはもちろんですが、彼女も、これから生まれてくる子供も必ず幸せにします」

「そういう問題じゃないんだよ。君の幸せにするは、義務だろう。そんなもの、信用にならない。聖菜のことを愛してもいない男に、娘と結婚させるわけにはいかない。だから、帰ってくれ。子供と娘はこちらで面倒を見る」

「ちょっと! 私の意見も聞いてよ!」


 私の言葉に父はこちらを睨みつける。


「お前は何もわかっていない。こんな男に人生を預けるな」

「お父さんこそ、千織の何を知っているわけ!? 私はお父さんよりも、千織のことを見てるし、知ってる! その上で一緒にいることを選んだのよ!」


 そう怒鳴り、無意識に涙をこぼしていた。

 そんな私の姿を見て、この場にいる全員が目を見開いた。私がこんな感情的になって怒鳴り、涙を流すことなんて今までに一度もなかったからだ。

 ホルモンバランスが崩れ、感情の制御が効きづらいとは、話にはうっすらと聞いた程度だった。今までいつでも冷静なことが、私の長所だったのに、そんな長所もどこへやら。
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