Ironic Honey
「お前は何もわかっていない! 数か月一緒にいたくらいで、見てきたとか、そんなので分かった気になるな!」

「お父さんだって、否定ばっかり! 何も認めようともしない!」


 そう叫んだところで、千織は隣から私の肩を抱き、ゆっくりとんとん、とリズムをとるように手で肩を優しくたたく。


「落ち着け。大丈夫だから」


 耳元で落ち着いた声で、そういうと千織は父の方へ向き合う。


「こうなったのは私の不誠実なことをした結果です。本当に申し訳ございません。ですが、聖菜さんと結婚をするのは義務感からではありません。私が、彼女を愛しているからです」


 千織の言葉に目を見開き、彼を見る。

 初めてだった。彼が愛しているとはっきり口に出したのは。この人は、もしかしたら…と何度も考えたことはあったけれど、ずっと勘違いだと思っていた。

 彼の顔は真剣で嘘を吐いているようには見えない。少なからず一緒に過ごしてきた中では、嘘を上手に吐けるようには見えていなかった。それに、真面目で誠実な人だ。彼は信用における人。

 私はそんな千織の言葉に頭を下げる。


「お願いします! この結婚を許してください!」


 両親にこんな風に頭を下げたことも、こんな風に反対を押し切って何かを言ったこともなかった。今まで聞き分けがよくて、反抗なんてしないし、することもないと思っていたのに。

 私がおとなしくしておけば、何もかもが平和だった。でも、今回は私も譲れない。
< 62 / 132 >

この作品をシェア

pagetop