Ironic Honey
 気付けば酔いは回り、記憶は既に朦朧としている。私は彼に支えられながら、店を出た。彼も十分に酔っていたはずなのに、私よりも足取りはしっかりしている。


「家、言えますか? 住所」

「ん~」


 そんな曖昧な返事をして、彼に身を委ねたまま。

 別にこの人相手なら一夜ぐらいなら何が起きても構わないと思っていた。二人共、それなりにいい歳しているのだから、騒ぎ立てるようなことでもない。

 それにいくら恋をしなくてもいいとは言っても、人肌を求めたくなる時だってある。

 見上げると、彼の心配そうな顔が見える。そんな彼に少し微笑み、私はいたずらに、ちゅと音を立てて唇に口付けると、目を見開いて固まっていた。

 初めて見た彼の間抜け面。それだけでも満足。

 彼は私の笑う顔を見た後、少し眉を下げ、困ったような顔をした後、私の顎をくいっと持ち上げ、そのまま唇を塞いでくる。

 この時点で合意。後悔なんてしない。

 軽い口付けを何度か交わすと、見つめ合い「ホテル行く?」と程よい低音で囁かれる。帰りたくないと言わなくても、こんなことでわかってくれるならたやすい。

 言葉を交わさなくても通じ合える、この温度感が心地よい。
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