Ironic Honey
「うちの妻に何か?」


 千織の声に不思議と安堵した。

 ずっと待っていた。会いたかった。

 篤史は千織の姿を見ると少し目を見開き「いえ、用事は済んだので」と苦笑いし、私の方を見た。


「…じゃあ、お幸せに」


 それだけ言って、背を向け歩いていく。

 私は見送るのも苦しく、俯いたままだった。

 過ぎた話だった。ここまで気にするような内容でもないのかもしれない。だけど、思ったより引きずっている。


「ごめん。急いだけど、もっと早く来るべきだった」


 耳元で聞こえる千織の声に首を横に振る。私はそれから少し苦笑いすると「わざわざ謝ってくれるなんて、律儀だよね」と気にもしていないふりを取り繕った。

 千織はそんな私に顔を顰めたが何も言わず、背中を優しく押して車の方へ促した。外で何かを話すことはなく、まっすぐ帰宅する。
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