Ironic Honey
Episode10
 羽聖が産まれた。

 千織は帰らずに長い時間待合室で待機し、立会が出来た。その間の私の記憶はない。

 ただひたすら痛みで叫んで、千織の手を強く強く握りしめて力んで、羽聖の産声が遠くで聞こえた気がする。それから千織の、感動と焦りが入り交じったような、私の名前を呼ぶ声も。

 お産をした後、カンガルーケアを希望していたくせに、睡眠不足と疲労が祟り、私はそんな余裕もなく意識を手放した。

 気付いた時には夜中で、千織は居なかったが、私はすぐに重い体を引き摺り、新生児室に羽聖の顔を見に行った。

 彼女の顔は思ったより綺麗で、昔はよく猿みたいなんて言われていたけれど、全くそんなことはない。所々くしゃっとしているところはあっても、綺麗な顔をしている。

 準備を整えてきたものの、顔を見るまで実感がわかなかった。羽聖の顔を見て思わず涙を零した。

 母子同室は明日からで、今夜は別々に過ごす。だから、少しでも意識を保って触れておくべきだったと少し後悔した。

 看護師は別の赤ちゃんを抱いてあやしており、忙しそうだ。声を掛けるか悩んでいると、向こうが私に気付いた。それから別の看護師を呼び、対応をしてくれた。


「すみません。こんな時間に触れたいだなんて、わがまま言って」

「いいんですよ。ほら、羽聖ちゃん。ママ会いに来たよ〜」


 羽聖の目は閉じていた。小さな手で自分の頬をかこうとしていたが、ミトンにより爪で引っかかないように守られている。
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