ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
「今さらだけど、電話って懐かしいよね。付き合う前、ハルが毎晩のようにかけてきて」
ふと思い出し、懐かしくて頬が緩む。
『あったな。そんなこと』
「ハル、私と話したそうにしてて、可愛かったなあ」
『話したがってたのはマナでしょ。毎回必ず、一、二コールで出たし。待ってたんだろ?』
「はい?」
ハルはいつも、水泳レッスンからの帰路でかけてきていた。
たしかにその時間が近づくと、ついスマートフォンを意識してしまっていた。
電話では、他愛のない話で笑ったり、この日に駅前にあるカフェの限定メニューを食べに行こうとか、本屋に付き合ってなどと誘われたりした。
「一番可愛かったのは『半額クーポン事件』のハルかなあ」
『…………』
素知らぬ顔をつくり、コーヒーを啜る彼。
その事件とは――。