ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
ハルと学校帰りに遊んでいたとき、うっかり『アキラ』と、弟の名で呼びかけてしまったのが発端だった。
そんなつもりはなかったのだが、『結局、弟みたいな存在なんだな』と腹を立てたハルは、目も合わせないまま足早に帰ってしまった。
そして、日課だった着信が途絶えたのだ。
鳴らないスマートフォンを見つめる、落ち着かない夜が続いた。
耐えきれなくなった私は、初めて自分から彼の番号をタップした。
当時、周りの高校生はみんな登録していたファストフード店のメルマガ。
そこで送られてきた、ソフトクリーム半額クーポンの二枚綴りを口実にしようと考えた。
『一緒に……行かない?』
『……友達と行けば』
上擦りそうになる声を抑えて誘ったものの、そっけなく返された。
『……私、もう自分のクーポン使いきっちゃったんだもん。ハルはまだ、使ってないんでしょ? もうすぐ期限切れるし、連れていって』
『え、なに。ソフトクリーム乞食ってこと?』
独特なワードチョイスに、思わず笑ってしまう。
『まあ、そんな感じ』
ハルはいつもより低いトーンではあったが、『いいけど』と、私の初めてのおねだりを了承してくれた。
もちろん、誘った理由は、ただ会いたかっただけ。
顔を見て話したかっただけだ。
翌日の放課後。
騒がしい店内で横並びになって、冷たいソフトクリームをつついて喋るうち、わだかまりはいつの間にか溶けてなくなっていた。