ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

『なに笑ってんの』

 十六歳の彼を思い出していたら、二十五歳の彼に目を細められた。

「べつにー?」

『……次会ったとき、覚えとけよ?』

「きゃー。こわーい」

 そう言って、いつものように笑い合ったけれど。

 嫌でも突きつけられてしまう。
 隣に、その心音も体温もないことを――。

 いつになるかわからない『次』、じゃなくて。
 今、会いたい。触りたい。

 笑っている彼の、揺れる髪先に目が止まった。
 短く切り揃えてあげたはずの前髪は伸び、綺麗な額に影を作っていた。
 
 私が最後に触れてから、それくらいの時間が経ってしまったんだ。

 ほんの些細な変化が、堰き止めていたダムをいともたやすく決壊させる。
 突然、目頭が熱くなり、視界が滲んだ。
 溢れ出す水分を悟られないよう、慌てて顔をシーツに押し付ける。
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