ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
「……もしもし」
歩みを止め、周囲の雑踏から逃れるように壁際へ寄って電話に出る。
『ハル? ごめんね、電話できなくて』
三日ぶりに聞く、甘い響き。
全身の血が急激に巡り始め、目が眩むような感覚に陥りながらも、低い声で言い放った。
「浮気してねーよな?」
間髪入れない問いかけに、マナは小さく吹き出した。
『してないよ』
「じゃあ、なんで二日も電話できなかったわけ?」
つい、幼稚な問い詰め方をしてしまう。
次にいつ会えるかもわからない上に、声さえ聞けない日があったせいで、驚くほど短気になっていたのだ。
『理由は、あとで言うけどさ』
「……はい?」
そんな、よくわからない返しをされた。
なんだか、声が浮ついているようにも聞こえる。