ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
「ビックリした? せっかくなら驚かせたくて、内緒で来ちゃった」
「…………」
何も返せないまま、ゆっくりと何歩か歩み寄った。
マナの向こうにある共有スペースからは、さっき電話越しに聴こえた音色が響いてくる。
「ギター弾いてる人、お隣さんなんだね。マンションの下で会ったら、私でも聞き取れる英語で話しかけてくれて、管理人さんに説明してくれて……ハルが帰ってくるまで、ここで待ってていいよって、言ってもらえたの」
「…………」
目の前で生身の彼女が喋っていることに、現実味が湧かない。
立ち尽くす俺に、マナは一歩近づいた。
たった三か月会わなかっただけなのに、その香りで理性を失いそうになる。
「彼ね、私がハルの奥さんだって、すぐにわかったんだって。『笑い方が、そっくりだから』って……」
「…………」
「そろそろハルが寂しがってるかなと思って、来たの」
そう言って、得意げに笑った。
けれど、次の瞬間。
瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめん……嘘。寂しいのは……私」
俯きながら、声を震わせている。
「……マナ」
「一緒にいても、いい……?」