ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
「ふふ。いいわねえ」
目尻を下げた香坂先生が、お茶を啜っている。
「……先生はどんなきっかけで、年下の旦那さんを好きになられたんですか?」
思わず、聞いてしまう。
先生には最近、こんな質問ばかりしてしまっている。
「そうねえ。年下の『男の子』だと思っていたのに、ふと、ちょっとした包容力を感じたとき、かしら」
「…………」
ハルの『包容力』など、微塵も感じたことはない。
隙あらば意地悪してきて、私のペースを乱しては愉快そうな笑みを見せるだけだ。
不意に、父の姿が思い浮かぶ。
写真の中の母へ毎日向けられる、穏やかな愛に満ちた微笑み。
私の理想はやはり『ああいうの』で――感情を乱されてばかりで落ち着かない恋愛など、望んでいないのだ。
「楽しそうね」
「……えっ」
どちらかというと悩んでいる表情のはずだったけれど、先生からはなぜか微笑ましい視線を向けられていた。
我に返り、勢いよく立ち上がる。
「あっ、私……そろそろ行きます! お邪魔しました!」
羊羹を頬張る後輩たちから「今日のデートの話も、あとで聞かせてくださいね〜」と、ひらひらと見送られた。
「……だから、デートじゃないっ」