ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

 ――ズドドドドンッ!

「っしゃあ」

 腰の近くで、小さなガッツポーズを作るハル。

 約束通り、ゾンビのシューティングゲームをやるため、ゲームセンターにやってきた。

「……なんかハル、上手くなってない?」

「マナが下手になっただけ」

「ちがうっ。あ、さては……こっそり練習してるでしょ!?」

「負け惜しみすんな」

 前回は、私がキャリーしてあげた。
 昔、弟と一緒にハマっていた時期があり、得意だったのだ。


 四方八方からあらゆる音が響き合う空間で、白熱する。
 コートは脱いで床に置き、二人とも腕まくりをしていた。

「マナ! 右から来てるそいつ、やれ!」

「わかってる!」

 ――ズドドドドンッ!

「あ」

「ちょっと、ハル! それゾンビじゃなくて、私っ!」

「やべ。本気で間違えた」

 ハルが私に誤射したせいでライフが尽き、暗転した画面に『ゲームオーバー』という無機質な文字が浮かび上がった。

「もーっ! いい感じだったのに!」

「……おまえがゾンビに見えたんだよっ」

 彼は切長の目を思いきり細め、これまで見た中で一番声を出して笑っていた。
 汗ばんだ額にかかる前髪と、くっきり上がっている口角。


 可愛い。


 もし口にすれば、彼は絶対に怒るだろう。
 でも、この『可愛い』は、たとえば弟や幼い子に感じるものとは、決定的に違っていて――。

 笑い合いながら、胸の奥がギュッと苦しくなった。
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