ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

 熱気の籠もったゲームセンターを出ると、すでに日は完全に落ちていた。
 天気は良いものの、冬の夜風は汗をかいた身体を容赦なく冷やしていく。

 マフラーを巻き直しながら駅に向かう途中、大きなクリスマスツリーの前を通りかかった。
 どちらともなく足を止め、並んで見上げる。

 平日の夕方。周囲に人通りはほとんどない。

 ゴールドやオレンジ、深い赤。
 暖色系のイルミネーションを中心に彩られ、寒空の下、優しくあたたかい光を放っていた。

 その煌めきを見つめたまま、ハルが静かに口を開く。

「クリスマス……何すんの」

 その質問に、心臓が少し跳ねた。

「……二十五日は、お父さんと舞台を観に行くよ。好きな俳優さんが出てて」

「誰?」

「去年、大河ドラマで主演してた人」

 数秒間、記憶を辿っていたハルが「え、あいつ?」と怪訝な顔をする。

「オッサンじゃん」

「……渋いって言って! 殺陣がすごく上手なの」

 反論するものの、興味なさげに「あっそ」と返された。


 それからしばらく、イルミネーションの点滅だけが沈黙を埋めていたけれど。


「年上が……好き?」


 そう言いながら、ゆっくりと私を見下ろしてきた。

 また――あの射抜くような瞳で。
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