ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

 そのまま、自身の誕生日を迎えた。

 大学にはいつも通り向かい、五限目の講義を終え、夕暮れのキャンパスを後にしようとしたとき。

 正門の脇、垢抜けない学生たちの波の中。
 ひどく目を惹く、浮いた姿があった。


 それは、マナだった。

 今日は月曜日で、仕事があるはずなのに。


 彼女も、俺に気づく。
 反射的に目を逸らし、通り過ぎようとした。

「……ハル! この間は、本当にごめん……っ」

 追いかけながら、必死に声をかけてくる。

「まだ、怒ってる……?」

 その弱々しい響きに足を止め、振り返る。

「……俺が勝手に行っただけで、マナは悪くないのに、謝んなよ」

 ただただ、情けない気持ちになった。

「そこが……ムカつく」

 彼女を見下ろす目が、ひどく冷たかったのだろう。
 胸を痛めているようなその表情が、俺を抉る。
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