ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 再び背を向け、歩き出そうとしたけれど。
 腕を腰に回され、引き止められた。

「私の部屋、来てよ……誕生日、お祝いしたい……」

 指先で、シャツの生地を握りしめられている。

「イヤなら……振り払って」

 その切実な声を聞き、俺に掴まる小さな手を、上から強く握りしめた。

「……ムカつく」

 悪態をつきながらも、追ってくれたことに安堵してしまう自分がいた。

「……仕事は?」

 背中越しに尋ねる。

「午後半休ってやつだよ」

「へえ」

「明日、火曜日だし……このまま一緒にいようよ」

 その言葉をトリガーに、彼女の手を乱暴に引いていった。
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