ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

「十九歳、おめでとう」

 シーツの波間で向かい合うマナが、ふわりと微笑みかけてくる。

「いちいち歳まで言うな」

「どうして?」

 幼稚な苛立ちの意味に、マナは気づかない。

「来年は二十歳だね。ハルの初めてのお酒、一緒に楽しみたい」

 そう言って、胸元へ顔を埋めてきた。

「ハル」

「なに」


「生まれてきてくれて、ありがとう」


 彼女が紡ぐその言葉は、静かな部屋の空気を震わせ、胸の奥に深く刻まれるようだった。

 滑らかな髪に触れる。
 そして、その身体をゆっくりと抱き寄せた。

「……二十一にならないで。待っててよ」

「え?」

 来週、彼女が誕生日を迎えるまでの間だけ、一歳差になる。
 けれどすぐにまた、二歳差へと元通りだ。
 その僅かな距離が、今はどうしようもなくもどかしい。

 不思議そうにする彼女を放置し、「誕生日プレゼント、何がいいの」と話題を変えた。

「うーん。何でもいい?」

「まあ、うん」

 俺はさっき、シックな腕時計をもらった。
 マナも物を希望すると思っていたけれど。


「じゃあ、ドライブ連れてって」


「……え」

 春休みに免許を取ったばかりのペーパードライバーに、突然の試練が降ってきた。

「ハルの助手席、乗りたいの」
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