ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

 一週間後、二十一歳になった彼女を乗せた運転は、余裕の欠片もなかった。
 手に汗握る俺の横で、マナは「回り道でもいいじゃん」と笑いながら、適当にナビを操作していた。

 なんとか目的地である、海を跨ぐ大きな橋へたどり着くことができた。

 車を降り、煌めく夜景を眺める。

「これから毎年、誕生日はこれがいい」

 肩に頭を乗せ、珍しく素直にねだってきた。

「……いいよ」

 潮風が煽る甘い香りに包まれ、キスをした。

 けれど。

 毎年のドライブも、俺の初めてのお酒を一緒に楽しむ約束も、どちらも果たされることはなかった。

 次の誕生日を迎える直前に、俺たちは別れたからだ。

 マナのいない、二十歳の誕生日。
 彼女が好きだと言っていたビールを口にした。
 これを好むなんて正気かよと疑うほど、ひどく苦かった。
 けれど、その苦味を舌で感じる瞬間だけは、どうしようもない胸の痛みが、僅かに誤魔化される気がした。

 マナは今、誰とこれを飲んでいるのだろう。
 そんな考えがよぎるたび、意味のない深酒をした。
 彼女を失うに至った、自らの幼稚さや愚かさに、吐き気が込み上げた。
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