ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】
 ◇

 寝室の仄暗い間接照明が、シーツの白をそっと照らしている。
 ひんやりとした布地の上に腰を下ろし、密かに速まる鼓動を悟られないよう息を整えた。

 しかし――。

 予想に反して、ハルは長い脚をベッドに投げ出し、頭を私の膝の上にコロンと乗せてきた。

 下から覗き込んでくる瞳は、私の反応を味わうように、ひっそりと弧を描いている。

 動揺を隠すため、わざとからかうような響きを乗せて応戦を試みる。

「……甘えたいんだ? 可愛いねえ、ハルは」

 少し湿り気を帯びた柔らかい髪に指を差し込み、ゆっくりと梳く。
「可愛い、可愛い」と重ねるたび、形の良い眉が微かに寄るのがわかった。

 その不満げな表情に、ふと、懐かしさをおぼえる。

 私が通っていた女子高の文化祭で、近くにある高校の制服に身を包み遊びにきていたハルと出会った。
 二つ年下というだけで、弟がいる私にはどうしても『生意気な男の子』にしか見えなかった。
 子供扱いされることに苛立った彼と、よく喧嘩をしたものだ。

 もちろん、膝に伝わる確かな骨格の重みも、見上げる顔のシャープな輪郭も、今ではすっかり大人の男性のそれであって、私よりもずっと頼もしいのだけれど。

「俺も、可愛がってやろっか?」

 不意に、髪を撫でていた私の手首が、ハルの骨ばった手指に捕らえられた。
 静まり返った寝室に、挑発的で甘い声が響く。

「可愛がって、ほしい?」
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