ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】
触れた場所から、じわりと熱が伝わってくる。
それでも私は、精一杯の余裕を装って、彼を見下ろした。
「いいよー。今、私が可愛がってる番だし」
「早く素直になれって」
そんな囁きとともに、腕を強く引かれた。
景色が反転し、あっという間にシーツの海に沈められる。
降ってくる無数のキスを受け止めながら、手のひらをその背中に添えた。
細身のシルエットに隠された、幼少期から大学まで水泳で鍛え上げられたしなやかな筋肉の起伏をたしかめる。
「……どんなのがいい?」
深く交わる視線。
逃げ場のない空気の中で、彼はさらに意地悪な顔をつくっている。
「……ふつうの」
「先週みたいなやつ?」
「ちがうっ! あれは無理!」
「なんで? 喜んでたじゃん」
艶を含んだ声で囁きながら、目を細めて笑う。
そのあざといくらい整った笑顔に、心臓がまたひとつ大きく跳ねてしまう。
「……喜んでないっ! とにかく無理!」
「あんときのマナ、可愛かったのにな」
「……っ」
言い返す言葉を塞がれるように、再び重なる唇。
いつまで経っても、私はこの子の手中で、心地よく転がされ続けているのだ。