ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】
 ◇

 自宅のドアを開けると、廊下は真っ暗で、しんと静まり返っていた。
 リビングのライトを控えめな光量でつけて、そっと寝室へ足を踏み入れる。

 薄暗い部屋の中、ベッドの中央でマナが丸くなっていた。
 規則的ながらも、いつもより少しだけ荒い寝息が聞こえる。

 屈み込み、前髪をそっと避けて手のひらを額に当てた。
 まだ熱い。

「……ん……ハル……? おかえり……」

 肌の感触に気づいたのか、重たげな瞼がうっすらと開く。

「今、何度?」

「夕方起きたときは……三十八度だったけど……」

 昨晩から熱を出した彼女は、せっかくの休日である火曜日を、布団の中、一人で過ごしていた。

 枕元に転がっていた体温計を手に取り、電源を入れて手渡す。
 マナは力なく腕を伸ばし、なんとか脇の下にそれを挟んだ。

 静寂の中、電子音が微かに響く。
 パジャマの中から抜き取られたそれを受け取り、液晶を確認した。

「七度八分か。あんま変わってないな。飯つくるから、待ってて」

 乱れた黒髪を優しく撫でると、潤んだ瞳が甘えるようにゆっくりと瞬きをした。
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