【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
愛される喜び
今日は私の夜間授業の日だったが、朝方、彩菜さんの体調が悪いので乃蒼を預かれないと連絡をもらっていた。授業を休講するしかないと思って連絡しようとしたら、玲さんに止められた。
「母に連絡した。乃蒼を預かりたいと言われたよ。こういう時に頼ってほしいって言ってただろう?」
「そうだけど、こんなに急に……夜はぐずりやすいし、大丈夫かな……」
「里奈も帰ってくるし、一緒に遊んでくれるさ。僕もなるべく早く今日は帰るようにするから、心配はいらないよ」
「ごめんなさい……」
「琴乃、君はもうひとりじゃない。言っただろう?」
「はい」
早く帰りたいと思う日に限って、最終授業のあとも予想以上に質問へ来る学生が多い。結局閉館時間ギリギリまで説明していた。
館内に閉館前の音楽がかかった。もうすぐ自習室も閉まる。いつもの五人組が相変わらず残って、私を取り囲んでいる。
「詳しくはまた授業でとりあげて説明をしますので、今日はここまでにしましょう」
「ねえ、先生……ここだけ最後に教えて……」
「ごめんなさい、今日はこれで終わりにして」
「琴乃」
低い声に驚いた。生徒たちが一斉に後ろを振り向く。そこには険しい表情で生徒たちを睨む彼がいた。
「玲さん、どうしてここに……?」
直接実家に行ってもらうはずだったのに、どうしてここにいるんだろう。
彼は私をとり囲んでいる生徒の中に踏み込んできた。そうして私の左手をとり、指輪をなぞって見せた。
「妻を迎えに来ただけだ。君達、もうそろそろ閉館の時間だろう?」
信じられないことに、生徒たちは玲さんを見てひるみもしない。
社会を知らない生徒たちは、スーツ姿でオーラを放つ彼を見ても恐れ知らずだった。