細マッチョな藤川くん
え? マッチョ?
八月に入った。私と藤川くんは、良い先輩後輩の関係を築いていた。
そんなある日、部内の若い社員たちの間で海に行こうという話が出た。
海の近い職場だ。日帰りでも十分に遊びに行ける。早速私たちは土日を利用して一泊で海に行くことになった。もちろん藤川くんも一緒だ。
「楽しみだねえ、藤川くん」
仕事の合間に何の気なしにそう言うと、藤川くんはちょっと緊張したように顔を紅潮させて「はい」と答えた。
あー。楽しみ。藤川くんとちょっと距離が縮まっちゃたりして!? なーんて。皆もいるんだからそんな上手い具合にいくわけないよね。
書類の陰でにやにやしながら私は考えた。最近では、藤川くんへの想いがかなり「恋」になっていた。
藤川くんスタイルが好みだし、かっこいいし、優しいし!
ふっと目の前に座る藤川くんと目が合った。慌ててにやけ顔を隠すようにパソコン画面に目を移す。
視線を逸らすその一瞬、藤川くんが何か決意をするように口を引き結んだのが見えた。
「海!」
土曜日、快晴。いい年して「わーい」と子供のようにはしゃぎながら私たちは熱い砂浜に降りた。
私はピンクフリルのついたかわいい感じの布面積の多いビキニを着ていった。その上に水色のジャケットを羽織ってレースのリボンのついた麦わら帽子をかぶる。若作り作戦である。
私、藤川くんよりふたつ年上だからな。ちょっと親しみを感じさせる幼さを前面に出しておこう。私、多分藤川くんに恋愛対象として見られてないもんなあ。
仕事中は先輩と後輩の仲だ。しかも私は彼の教育係。どうしても厳しいところも見せることになる。自分の新入社員の時のことを思い出すとわかるが、藤川くんも教育係にイラつくこともあるだろう。私たちの関係はうまくいっているほうだとは言え、きっと藤川くんも私のことを煙たく思うことも多いはず。
私は麦わら帽子とジャケットを取って、拳を握りしめた。
でも、今はオフ! 仕事を離れた私のフレンドリーさを見て、藤川くん!
横を見ると、藤川くんが他の男性社員と一緒にビーチパラソルを立てていた。紺色の膝上まである海パンの上に、白いシャツを羽織っている。
ん?
その様子を見て、私は少し違和感を覚えた。
なんだろ、別にいつもの藤川くん。
私がそちらを眺めていると、藤川くんがこちらに気付いたようだ。彼は振り返ってにこりとぎこちない様子で笑うと、こちらに近づいてきた。
「吉岡さん、えーと、かわいい水着ですね、って、えっとこれ、セクハラですか?」
私はぷっと吹き出した。
「ハラスメント研修で教えたことをちゃんと理解しているね! でも、そこまで気にしなくても大丈夫!」
言ってからはっとした。
いけない、いけない、ここはオフオフ! 職場じゃないんだから先輩風は吹かせない。
私はぶんぶんと勢いよく頭を振った。そして彼ににこりとフレンドリーアピールをしながら微笑みかけた。
「それ設置し終わったら、一緒に泳ぎに行こうよ。みんな先行ってるよ」
「そうですね」
藤川くんは言いながら、勢いよくシャツを脱いだ。
「え」
「え?」
思わず私の口から出た言葉に、藤川君は首を傾げた。彼は怪訝そうな顔をしている。しかし私の気持ちはそれどころではなかった。
ーーマッチョだ。
私は立ち尽くした。目の前の藤川くんの上半身をまじまじと見つめる。
そこには浅黒い六つに割れた腹筋と隆起した胸板があった。
ーーいわゆる細マッチョだ。
私は足から力が抜けていく気持ちがした。
ーー藤川くん、脱ぐとすごいんですタイプだ。
「え、ちょ、吉岡さん!?」
心配そうな藤川くんの声を聞きながら、私はへなへなと座り込んだ。
そんなある日、部内の若い社員たちの間で海に行こうという話が出た。
海の近い職場だ。日帰りでも十分に遊びに行ける。早速私たちは土日を利用して一泊で海に行くことになった。もちろん藤川くんも一緒だ。
「楽しみだねえ、藤川くん」
仕事の合間に何の気なしにそう言うと、藤川くんはちょっと緊張したように顔を紅潮させて「はい」と答えた。
あー。楽しみ。藤川くんとちょっと距離が縮まっちゃたりして!? なーんて。皆もいるんだからそんな上手い具合にいくわけないよね。
書類の陰でにやにやしながら私は考えた。最近では、藤川くんへの想いがかなり「恋」になっていた。
藤川くんスタイルが好みだし、かっこいいし、優しいし!
ふっと目の前に座る藤川くんと目が合った。慌ててにやけ顔を隠すようにパソコン画面に目を移す。
視線を逸らすその一瞬、藤川くんが何か決意をするように口を引き結んだのが見えた。
「海!」
土曜日、快晴。いい年して「わーい」と子供のようにはしゃぎながら私たちは熱い砂浜に降りた。
私はピンクフリルのついたかわいい感じの布面積の多いビキニを着ていった。その上に水色のジャケットを羽織ってレースのリボンのついた麦わら帽子をかぶる。若作り作戦である。
私、藤川くんよりふたつ年上だからな。ちょっと親しみを感じさせる幼さを前面に出しておこう。私、多分藤川くんに恋愛対象として見られてないもんなあ。
仕事中は先輩と後輩の仲だ。しかも私は彼の教育係。どうしても厳しいところも見せることになる。自分の新入社員の時のことを思い出すとわかるが、藤川くんも教育係にイラつくこともあるだろう。私たちの関係はうまくいっているほうだとは言え、きっと藤川くんも私のことを煙たく思うことも多いはず。
私は麦わら帽子とジャケットを取って、拳を握りしめた。
でも、今はオフ! 仕事を離れた私のフレンドリーさを見て、藤川くん!
横を見ると、藤川くんが他の男性社員と一緒にビーチパラソルを立てていた。紺色の膝上まである海パンの上に、白いシャツを羽織っている。
ん?
その様子を見て、私は少し違和感を覚えた。
なんだろ、別にいつもの藤川くん。
私がそちらを眺めていると、藤川くんがこちらに気付いたようだ。彼は振り返ってにこりとぎこちない様子で笑うと、こちらに近づいてきた。
「吉岡さん、えーと、かわいい水着ですね、って、えっとこれ、セクハラですか?」
私はぷっと吹き出した。
「ハラスメント研修で教えたことをちゃんと理解しているね! でも、そこまで気にしなくても大丈夫!」
言ってからはっとした。
いけない、いけない、ここはオフオフ! 職場じゃないんだから先輩風は吹かせない。
私はぶんぶんと勢いよく頭を振った。そして彼ににこりとフレンドリーアピールをしながら微笑みかけた。
「それ設置し終わったら、一緒に泳ぎに行こうよ。みんな先行ってるよ」
「そうですね」
藤川くんは言いながら、勢いよくシャツを脱いだ。
「え」
「え?」
思わず私の口から出た言葉に、藤川君は首を傾げた。彼は怪訝そうな顔をしている。しかし私の気持ちはそれどころではなかった。
ーーマッチョだ。
私は立ち尽くした。目の前の藤川くんの上半身をまじまじと見つめる。
そこには浅黒い六つに割れた腹筋と隆起した胸板があった。
ーーいわゆる細マッチョだ。
私は足から力が抜けていく気持ちがした。
ーー藤川くん、脱ぐとすごいんですタイプだ。
「え、ちょ、吉岡さん!?」
心配そうな藤川くんの声を聞きながら、私はへなへなと座り込んだ。