細マッチョな藤川くん
藤川くんは悪くない
二人でペットボトルを買い、海の見える窓際の席に腰を下ろした。
しばらく他愛もない話をした後、藤川くんが難しい顔をして口を開いた。
「あの、俺、なんかしました?」
「え?」
「あの時、明らかに俺を見て気分悪くなったっぽかったから」
聞き返すと、藤川くんは辛そうに呟いた。私は焦った。
「ち、違うの、藤川くんは何も悪くないの!」
「でも、俺の顔見て『え』って、驚いてましたよね」
「えー、そんなこと言ったかな?」
しらを切る。さすがに「顔じゃなくてシックスパックを見て驚いた」とは言えない。
「言いましたよ。俺耳いいんです」
意外としつこいな、と思いながらも、これは観念するしかないなと諦めた。
私は苦笑した。
「いやあ、ごめんね。私、ちょっとマッチョが苦手なところがあって、というか、怖くて」
「は?」
思ってもみないことを言われたのだろう。藤川くんはぽかんと目と口を丸く開けた。
私は頬を搔きながら白状した。
「昔、嫌な思い出がたくさんあって……」
私の父はマッチョだった。元から粗野な人だったが、酒が入るとさらに手に負えなくなる人だった。そしてマッチョなので腕力がある。私が小学一年生のある日、父は酒に酔って母を殴った。酔いが醒めてから父は平謝りしたらしいが、さすがにブチギレた母は離婚した。
小学四年生の時の担任の先生もマッチョだった。体育の授業でドッジボールをしていた時、熱くなった先生の剛速球を頭に受け、私は倒れた。後で聞いたところによると、先生は職員会議にかけられたあと、保護者説明会で謝罪したらしい。
中学一年の時、同じクラスの男子に告白された。彼もマッチョだった。私は彼のことを特に好きではなかったのでお断りをしたのだが、「お試しでもいいのでつきあって欲しい!」と手を握られた。その握力が強すぎて私は突き指をした。
そんなこんなで、私はマッチョを見ると警戒するような体になってしまったのだ。
それを認めるのが怖くて、細身の男性が好きだと思い込もうとした。細身男性をよく観察してステキなところをたくさんみつけた。
細身長身が好き、というのは正確ではない。正しくは「長身の人が好き」「マッチョは苦手」ということである。
赤面しながら説明し終わってから、私は藤川くんに頭を下げた。
「ごめんね。マッチョ差別だよね、こんなの……」
藤川くんはしばらく何も言わなかった。ただ呆然とした様子で私の顔を見ていた。
怒ったかな、呆れたかな。
私は俯いた。しかし、その間も藤川くんは一言も言葉を発してくれない。
もしかして、嫌われた……?
その考えに思い至り、ぎゅっと心臓が痛くなった。
そうだよね、マッチョな人にマッチョが苦手って言ったら、そりゃ嫌われるよね。自業自得だよね。
段々と目頭が熱くなってきた。
マッチョは苦手だけど、藤川くんのことは苦手じゃないのにな。
涙が出てしまわないように、ぐっと顔を上げる。すると、藤川くんと目があった。藤川くんはごくりと唾を飲み込んでからこう尋ねてきた。
「つまり、俺のこと苦手ってことですか……?」
「そんなことないよ!」
私は即答した。
そう、藤川くんがマッチョだと知った今でも、不思議なことに藤川くんへの想いは変わらなかった。ただ、さっきはあまりに意外でびっくりしてしまっただけで。
「でも、マッチョ苦手で怖いんでしょ? 俺、細く見られるけど、筋トレとか好きでマッチョ目指してて……」
「いいじゃん、ステキな夢じゃん!」
「でもそうなると吉岡さんに嫌われるんですよね、俺……」
「嫌いになんかならないよ! 私、藤川くんのこと好きだもん!」「俺、吉岡さんのこと好きなのに!」
二人同時に言って、そして、お互い目を丸くし合った。
しばらく他愛もない話をした後、藤川くんが難しい顔をして口を開いた。
「あの、俺、なんかしました?」
「え?」
「あの時、明らかに俺を見て気分悪くなったっぽかったから」
聞き返すと、藤川くんは辛そうに呟いた。私は焦った。
「ち、違うの、藤川くんは何も悪くないの!」
「でも、俺の顔見て『え』って、驚いてましたよね」
「えー、そんなこと言ったかな?」
しらを切る。さすがに「顔じゃなくてシックスパックを見て驚いた」とは言えない。
「言いましたよ。俺耳いいんです」
意外としつこいな、と思いながらも、これは観念するしかないなと諦めた。
私は苦笑した。
「いやあ、ごめんね。私、ちょっとマッチョが苦手なところがあって、というか、怖くて」
「は?」
思ってもみないことを言われたのだろう。藤川くんはぽかんと目と口を丸く開けた。
私は頬を搔きながら白状した。
「昔、嫌な思い出がたくさんあって……」
私の父はマッチョだった。元から粗野な人だったが、酒が入るとさらに手に負えなくなる人だった。そしてマッチョなので腕力がある。私が小学一年生のある日、父は酒に酔って母を殴った。酔いが醒めてから父は平謝りしたらしいが、さすがにブチギレた母は離婚した。
小学四年生の時の担任の先生もマッチョだった。体育の授業でドッジボールをしていた時、熱くなった先生の剛速球を頭に受け、私は倒れた。後で聞いたところによると、先生は職員会議にかけられたあと、保護者説明会で謝罪したらしい。
中学一年の時、同じクラスの男子に告白された。彼もマッチョだった。私は彼のことを特に好きではなかったのでお断りをしたのだが、「お試しでもいいのでつきあって欲しい!」と手を握られた。その握力が強すぎて私は突き指をした。
そんなこんなで、私はマッチョを見ると警戒するような体になってしまったのだ。
それを認めるのが怖くて、細身の男性が好きだと思い込もうとした。細身男性をよく観察してステキなところをたくさんみつけた。
細身長身が好き、というのは正確ではない。正しくは「長身の人が好き」「マッチョは苦手」ということである。
赤面しながら説明し終わってから、私は藤川くんに頭を下げた。
「ごめんね。マッチョ差別だよね、こんなの……」
藤川くんはしばらく何も言わなかった。ただ呆然とした様子で私の顔を見ていた。
怒ったかな、呆れたかな。
私は俯いた。しかし、その間も藤川くんは一言も言葉を発してくれない。
もしかして、嫌われた……?
その考えに思い至り、ぎゅっと心臓が痛くなった。
そうだよね、マッチョな人にマッチョが苦手って言ったら、そりゃ嫌われるよね。自業自得だよね。
段々と目頭が熱くなってきた。
マッチョは苦手だけど、藤川くんのことは苦手じゃないのにな。
涙が出てしまわないように、ぐっと顔を上げる。すると、藤川くんと目があった。藤川くんはごくりと唾を飲み込んでからこう尋ねてきた。
「つまり、俺のこと苦手ってことですか……?」
「そんなことないよ!」
私は即答した。
そう、藤川くんがマッチョだと知った今でも、不思議なことに藤川くんへの想いは変わらなかった。ただ、さっきはあまりに意外でびっくりしてしまっただけで。
「でも、マッチョ苦手で怖いんでしょ? 俺、細く見られるけど、筋トレとか好きでマッチョ目指してて……」
「いいじゃん、ステキな夢じゃん!」
「でもそうなると吉岡さんに嫌われるんですよね、俺……」
「嫌いになんかならないよ! 私、藤川くんのこと好きだもん!」「俺、吉岡さんのこと好きなのに!」
二人同時に言って、そして、お互い目を丸くし合った。