初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる


「よかったじゃないか。家に縛られることもなく、医者になるっていう、夢を叶えて。好きな男とも一緒になれて。その男に一生守られて、好きなように生きられるんだからな……」

 遥奈はどう声をかければいいかもわからず、ただ兄を見つめることしかできない。

 そんな遥奈の様子が気に食わなかったのだろうか。すっと笑みを消した兄が冷たい声を放った。

「ああ、なるほどな。自分の夢を諦めて、家業を継いだっていうのに、経営悪化に追い込んだ挙げ句、実の妹を利用しようとした結果、利用しようと思った妹の婚約者に窮地を救ってもらった、哀れな兄を笑いにきたのか」

 兄からの言葉に、胸がギュッと締め付けられる心地がする。

「べ、別にそんなつもりじゃ……。ただ、お兄ちゃんと、ちゃんと話がしたくて——」

 遥奈が震える声で告げると、兄は鼻で笑った。

「今さら、何の話だよ? 俺はもうお役御免だろ? それとも何か? 何もかも中途半端で、何の役にも立たない、用なしはさっさと出ていけってことか? 言われなくても出てってやるよ」

 兄の口調は荒々しく粗野なものだが、どこか痛々しい。

 もしかすると、自分自身に失望しているのかもしれない。

 ——こんな自暴自棄の状態で家を出たら、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 思わず兄の傍に駆け寄ろうとした遥奈の肩にそっと触れた零が引き留めてくる。

 零に振り返ると、『ここは俺に任せて』というように頷いた。

 そうして零が一歩前へと踏み出した刹那、兄の肩が静かに揺らめく。

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