初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる
兄は苦々しい表情で眉根を寄せる。
「……遥奈、本当にいいのか?」
おそらく、今回のことも含め、これまでのことを気にしているのだろう。
けれど、誰にでも間違いはある。
家業を継ぐために夢を諦めて、重責を担っていたのだから、捌け口が必要だったに違いない。
だからといって、許せるものじゃない。
でも、今日まで、兄と向き合うことを避けてきた自分にも責任がある。
——だったら、お互い、これから改めればいい。
遥奈はだらりと垂らしている兄の手を取り、揺すりながら訴えた。
「お父さんから聞いたの、リクエストがあればピアノの演奏もしてたって。評判もよかったって聞いてるよ。私、お兄ちゃんのピアノがまた聴きたい。もうお兄ちゃんだけに背負わさないから、皆で力を合わせて、皇を盛り立てていこうよ。ね?」
「……遥奈」
困惑に満ちていた兄の目から、ポトリと大粒の涙が零れ落ちてゆく。
「……やらせてください。もう一度……皇のために……やらせてください。……俺にできることなら、何だってやりますから、お願いします」
初めて目にした兄の涙に、遥奈の目頭が熱くなる。
涙で滲む視界には、床に額をつけて深々と頭を下げる兄の姿が映っていた。