初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる


 兄の奏でる旋律がチャペルいっぱいに広がるなか、母によるベールダウンが終わると、隣にそっと影が差した。

「遥奈、行こうか」

 右側に視線をやると父が手を差し出している。

 幼い頃から変わらない、穏やかな声と、厚くて大きな手。

 静かに頷いて手を重ねると、その優しい温もりに胸の奥がぐっと熱くなる。

 父の表情に嬉しさと寂しさとが入り交じっていて、何とも言えない気持ちになる。

 遥奈は頬にぐっと力を込めて父とゆっくり歩みを進めてゆく。

 正面の大きな窓から光が降り注ぐ祭壇まで伸びる、真っ白なバージンロードを青と白の薔薇とブルーベルとが彩っている。

 バージンロードには、花嫁の過去・現在・未来を表していると聞いたことがある。

 遥奈の行く末を祝福するかのように、兄のピアノの旋律が澄んだ音色を奏で続けている。

 未来を照らす光のその先に、零がいる。

 遥奈は万感の想いを胸に、一歩、また一歩と、歩みを進めてゆく。

< 208 / 237 >

この作品をシェア

pagetop