初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる
もちろん、声は潜めているが、零に向けられる熱量までは抑え切れていない。
独身と思しき女性教師までもが秋波を送っていたほどだ。
凜とした佇まいに麗しい容姿もさることながら、穏やかでよく通る声音も耳に心地よかった。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私たち在学生は皆さんのご入学を心から嬉しく――」
――とっても穏やかで、甘い声……
零の姿に、声に、魅了され聞き惚れているうちに、あっという間にスピーチが終わっていたほどだ。
(……終わっちゃった。もっと……聞いていたかったな……)
入学式を終えて教室に帰った頃には、学園の貴公子こと――神楽木零の話題で持ちきりになっていたが……
遥奈がその話題に加わることはなかった。
当時、赤面症に悩んでいたのもあり、内向的だった遥奈は、目立たないように空気と化していたからだ。
遠視用の分厚いレンズの眼鏡をかけていたのもあり、見た目も暗くて地味だったうえに、いつも俯いてばかり。
休み時間も誰かと話すこともなく一人静かに本を読んで過ごしていた。
唯一の楽しみといえば、放課後の図書室で好きな本を読みふけることぐらい。
そんな遥奈の耳にも零の噂は届くほどだった。