初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる
ゆえに、零のことが気になって仕方なかったのだろう。
校舎で零を見かけると、無意識に目で追うようになっていた。
そんなある日の放課後、図書室である本を手にした遥奈の胸の鼓動がドクンと一際大きく拍動した。
貸し出しカードに書かれた『神楽木零』の名前を目にしたのだ。
麗しい美貌同様、癖のないとても綺麗な文字だった。
日付を見れば、一ヶ月も経っていない。
――あの学園の貴公子も、この本を手にして、読んだのか……
そう思っただけで、なぜだか、胸が苦しいほどにドキドキ騒いで、どうしようもなかった。
以来、貸し出しカードをチェックするようになり、遥奈はあることに気づく。
あることとは、遥奈が好んで読んでいた本の貸し出しカードのほとんどに、零の名前が書かれていたことだ。
おそらく、そのことに気づいているのは、自分だけ。
そう思った瞬間、遥奈の胸に言いようのない嬉しさが込み上げる。
貸出日も返却日も決まって金曜日だというのもわかった。
だからといって、一年生で帰宅部の遥奈と、三年生で生徒会長でもある零とは時間も合わないだろう。
それでも構わない。別に会いたいわけじゃない。
ただ、自分と同じ本を好んで読んでいる学園の貴公子に興味が湧いただけ。
この時の遥奈には、零に対するそれが――恋という感情だなんていう自覚などまったくなかったのだ。