初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる
「野沢は、会えばいつもそればっかりだなぁ」
「俺も、柚木さんみたいな可愛い教え子がいてくれたら、張り合いがあるんだけどなぁ」
「それは、おまえの気持ちの持ちようだろ」
「柚木さん、九州に来る気はない? 都会もいいけど、田舎は空気も食べ物も美味しいよ」
「ふふっ、ありがとうございます。お気持ちだけ有り難くいただいておきますね」
「え? 即答? 少しは迷ってくれないと」
「いい加減諦めろ、しつこい年寄りは嫌われるぞ」
「年寄り扱いするな」
沢渡も野沢も還暦を過ぎているとは思えないほど、エネルギッシュで若々しい。
――子どものじゃれあいみたいで、何だか微笑ましい。
ラウンジのソファ席で向かいに座る二人のやり取りに加わりつつ、遥奈は密かに和んでいた。
不意に、正面から一組の男女がこちらに近づいてくる気配を感じて何気なく視線を上げると、よく知る人物の姿を捉えた。
途端に、遥奈の鼓動がドクンッと大きく跳ね上がる。
視線を向けたことに後悔してももう遅い。
何故なら、そこには、零がいたから。
その隣には、先日ゴシップ記事で取り上げられていた、許嫁――君塚紫帆が寄り添っている。