名もなき空に、青い風が吹く
 お裁縫は趣味じゃなくて立派な仕事と胸を
張る伯母さんは、時々、わたしにも手作りの
アクセサリーや小物をくれるのだった。

 「芦香ちゃんは色が白いから淡い色が映え
ると思って下地は薄紫にしたの。どうかしら、
ちょっと付けてみるわね?」

 作業中で手が離せないわたしの返事を待つ
こともなく、伯母さんが髪にパチンとバレッ
タを留める。バレッタか。さらさらショート
のわたしに使えるかなぁ?

 そう思いながら黙って様子を窺っていると、
案の定、頭の上から伯母さんのくぐもった声
が聞こえてきた。

 「小さなバレッタならいけると思ったんだ
けど、あら、やっぱり落っこちちゃう???
芦香ちゃんの髪、艶々でさらさらしてるから、
ちょっと難しいわねぇ」

 パチン、パチン、パチン。付ける位置を変
え、束ねる髪を増やし、伯母さんがひとりで
奮闘する。一瞬、髪の長い妹にあげた方がと
言い掛けたわたしは、その言葉を飲み込んだ。

 「たぶん耳のところで留めれば大丈夫だと
思う。落ちてきても耳があればそこで留まる
から」

 やっぱりわたしのために作ってくれたんだ
から、わたしが使うべきだ。大好きな伯母さ
んの厚意を無にしたくなくてアドバイスする
と、耳元でパチンと音が鳴った。

 「本当だわ、これならなんとか大丈夫そう。
芦香ちゃんこっち向いてみて。うわぁ可愛い。
映画に出てくるお姫様みたい♡」

 いや、いくらなんでもそれは褒め過ぎだろ
うと突っ込みたい気持ちを抑えつつ、えへっ、
と笑って見せると伯母さんは続けた。

 「うちはひとり息子で女の子がいないでし
ょう?だから、こういうことしてあげられる
芦香ちゃんがいてくれると娘がいるみたいで
嬉しいのよねぇ。もちろん、男の子にも男の
子の可愛さがあるんだけど」

 言ってから我が子を気遣うように伯母さん
がいっくんを横目で見る。するとわたしたち
の様子を見守りながらトップコートを塗って
いたいっくんが、おもむろに言った。

 「芦香、さっきの話なんだけどさ」

 「さっきの話?」

 「うん、結婚して家族が出来たら一緒にい
られないっていう、あれ」

 「ああ」

 そう言えばそんなこと言ったなぁと頷くと、
一同の視線がいっくんに集まる。いっくんは
引き締まった唇を舐め、ひと呼吸すると一気
に言葉を口から押し出した。
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