名もなき空に、青い風が吹く
 「お湯の中に大腸菌がいることくらい簡単
に想像できるじゃん。だいたいねー、いつま
でも過去を引きずってるお姉ちゃんが悪いの。
お姉ちゃんのお風呂が長いとお母さんが心配
するんだよ。暗い顔して家族に心配ばっかり
かけないでよね」

 「うっ」

 年の割に大人びている妹にもっともなこと
を言われ、しゅんとしてしまう。お母さん子
の陽は常に親の顔色を窺っていて、わたしと
お母さんの不協和音にもちゃんと気付いてい
るのだ。だからわたしに対しては少しばかり
当たりが強い。別に仲が悪いわけじゃないけ
れど、わたしと陽の間には目に見えない壁の
ようなものがあった。

 念入りに洗った足の裏の臭いを確認すると、
満足そうな顔で頷いて陽が浴室から出て行く。
その背中を見送るとわたしはぼそりと呟いた。

 「陽が飛び込んで来るの、今日だったんだ」

 ウメコのうんちを踏んづけた妹がお風呂に
乱入してくるという、出来事。実はわたしは
ずいぶん前に同じ光景を目にしていた。と言
っても、別にタイムリープして視たわけじゃ
ない。わたしは手を握ると相手の未来が視え
てしまうことがあるのだ。

 いわゆる未来視という能力。予知能力とも
言うけれど、視える未来は断片的ですべてを
知ることは出来ないからわたしはあえてそう
呼んでいる。

 手を握った瞬間、頭がフリーズするような
感覚があった時は能力が発動する合図。目の
前の光景がガラッと変わって、未来の出来事
が映し出される。視えた未来はいまのところ
全部的中しているから、我ながら比類なき特
殊能力を与えられたものだとほくそ笑んでい
たけれど……。

 それが大切な人の悲劇なら、シャレになら
ない。わたしは昼間視えた病室の映像を思い
出した。

 あれは間違いなく大翔だった。どこの病院
かも、どれくらい先の未来の出来事なのかも
わからないけれど。ベッドに横たわっていた
大翔はいまとそんな変わらなかった気がする。
現像した写真みたいに隅っこに日付でも印字
されてれば、いつの出来事かばっちりわかる
のだけど。いかんせん、この能力はそこまで
万能じゃないから視えた映像を踏まえていつ、
なにが起こるのかを探っていくしかない。
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