陽炎
私がまだ小学生だった頃。

母と祖母の仲は良くなかった。

昔からある、嫁姑問題だ。

学年が上がるにつれ、私がだんだん大人の話ができるようになると、二人は私のところにあからさまな愚痴をこぼしに来るようになった。

私は、ただ黙ってそれを聞き、夜、一人で布団に入っては静かに泣いていた。

大好きな家族が、誰かの悪口を言うところなんて、見たくなかった。

そんな日々の中で、学校は私にとって唯一の逃げ場だった。

休み時間には、男子も女子も関係なく、外で思いきり遊ぶことができた。

大きな口で笑い、汗をかき、誰も私のことを気にしない時間。

その自由な時間が、私を少しだけ救ってくれていた。

六年生になると、周りは好きな異性の話をするようになった。

私にも、もれなく気になる男子がいた。

その子も私と同じで、外でよく遊んでいる一人だった。

でも、夏ももうすぐ終わり。

学校は運動会に向けた練習で、毎日体育の授業ばかりだった。

私の学校では、プログラムにフォークダンスがあるため、男女で手を繋ぐオクラホマミキサーを練習していた。

次々と入れ替わる男子。

(次はあの子かもしれない)と思うたびに、胸がドキドキした。

チャン、チャン。

私は、好きな人と手を繋いだところで音楽は終わった。

片手を高く上げて、向かい合う形で終わるので、少し恥ずかしかった。

その時――

「日和(ひより)って、腕太いよな」

と、彼は私に向かって言った。

もしかしたら、照れ隠しだったのかもしれない。

でも、その時の私には、ナイフで刺されたみたいに痛くて、動けなくなった。

それからの私は、自分の容姿は醜いのだと、一人、自席で過ごすようになった。

活発だった私は姿を消し、中学に入る頃には前髪を伸ばして顔を隠し、マスクを外さなくなった。

おそらく、家でのストレスも限界だったのだろう…。

そうして全てを諦めた私は、いつの頃からか、陽炎が立ち上るようになった。

私の周りの空気はゆらゆらと揺れ、声は遠く聞こえ、現実の景色はどことなくぼんやりと見えた。

そんな陽炎を、同じクラスで、同じ美化委員になった朝比奈 彗も纏っていた。

彼はなぜ、私と同じように陽炎を纏っているのだろうか――。

このクラスで初めて見てから、ずっと気になっていた。
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