陽炎
そんな私には、秘密の趣味がある。
それは編み物だ。
一人で過ごすようになった頃、なんとなく始めたら、意外とハマってしまった。
前髪で顔を隠しているからといって、オシャレに興味がないわけではない。
可愛い小物が大好きな私は、毛糸で色々なファッションアイテムを作れるようになっていた。
それを自分だとわからないように、SNSに投稿している。
同じ編み物好きのフォロワーから「いいね」をもらえることが、密かな楽しみでもある。
毛糸がなくなると、「欲しい」と言ってくれた人に作品を売り、そのお金でまた新しい毛糸を買う。
そのおかげで、この部屋の様々なものが毛糸で作られていた。
でも、自分で作ったものは学校には持っていっていない。
バレたら困るから。
でも一つだけ。
自信作のパンダのキーホルダーを鞄につけている。
今朝も、パンダのキーホルダーを揺らしながら人の目を避けるように登校した。
「放課後、委員会に入った人は集まりがある。各委員会の教室に分かれるように」
と、担任が朝の会でクラスに告げた。
(今日は毛糸を買いに行けないな)と、肩を落とした。
放課後。
特に朝比奈君と相談することもなく、一人で美化委員が集まる教室を目指す。
いつも自分の上履きを見つめながら足音を立てないように歩く。
ふと、視線を上げると目の前には朝比奈君が歩いていた。
目の前を歩く朝比奈君は、とても背が高かった。
「に、二年D組の、あ、朝比奈 彗です」
「遠野 日和です。よろしくお願いします」
顔を隠す二人は、皆の前で聞こえるか聞こえないかという小さな声で、挨拶をした。
美化担当の先生が、
「遠野さん、今年もよろしくね」
と親しげに声をかけてきた。
美化委員を連続でやる人なんて、あまりいないのかもしれない。
この日は、美化委員の年間の仕事内容と委員長を決めるだけで、すぐに終わった。
それから、週に一度の清掃時の点検や、行事前のグラウンド整備、校舎内のゴミチェックなどに二人で参加した。
無言で。
持ち回りで環境整備のポスター作りもあったが、私たちはまだ担当ではなかった。
梅雨に入り、毎日のように雨が降る。
美化委員は傘立ての管理も任されており、乱雑にならないようきちんと整頓する。
その光景を見ている生徒たちは、大抵、整えてから傘を入れてくれるので、そんなに大変ではない。
朝、朝比奈君と傘立てのところに立っていると、「おはようございます」と声をかけてくれる生徒もいた。
でも、私たちは声を発することもできず、会釈で返すだけだった。
キンコンカンコーン。
登校も落ち着いた頃、チャイムが鳴った。
(急いで教室に行かないと…)
と鞄を肩にかけ、歩き出したその時――
ガタンッ
傘の柄にキーホルダーが引っかかり、パンダが飛んでいってしまった。
「あっ…」
朝比奈君は静かにそれを拾うと、こちらに向かって手を差し出す。
「可愛いパンダだね」
それが、私たちの初めての会話だった。
それは編み物だ。
一人で過ごすようになった頃、なんとなく始めたら、意外とハマってしまった。
前髪で顔を隠しているからといって、オシャレに興味がないわけではない。
可愛い小物が大好きな私は、毛糸で色々なファッションアイテムを作れるようになっていた。
それを自分だとわからないように、SNSに投稿している。
同じ編み物好きのフォロワーから「いいね」をもらえることが、密かな楽しみでもある。
毛糸がなくなると、「欲しい」と言ってくれた人に作品を売り、そのお金でまた新しい毛糸を買う。
そのおかげで、この部屋の様々なものが毛糸で作られていた。
でも、自分で作ったものは学校には持っていっていない。
バレたら困るから。
でも一つだけ。
自信作のパンダのキーホルダーを鞄につけている。
今朝も、パンダのキーホルダーを揺らしながら人の目を避けるように登校した。
「放課後、委員会に入った人は集まりがある。各委員会の教室に分かれるように」
と、担任が朝の会でクラスに告げた。
(今日は毛糸を買いに行けないな)と、肩を落とした。
放課後。
特に朝比奈君と相談することもなく、一人で美化委員が集まる教室を目指す。
いつも自分の上履きを見つめながら足音を立てないように歩く。
ふと、視線を上げると目の前には朝比奈君が歩いていた。
目の前を歩く朝比奈君は、とても背が高かった。
「に、二年D組の、あ、朝比奈 彗です」
「遠野 日和です。よろしくお願いします」
顔を隠す二人は、皆の前で聞こえるか聞こえないかという小さな声で、挨拶をした。
美化担当の先生が、
「遠野さん、今年もよろしくね」
と親しげに声をかけてきた。
美化委員を連続でやる人なんて、あまりいないのかもしれない。
この日は、美化委員の年間の仕事内容と委員長を決めるだけで、すぐに終わった。
それから、週に一度の清掃時の点検や、行事前のグラウンド整備、校舎内のゴミチェックなどに二人で参加した。
無言で。
持ち回りで環境整備のポスター作りもあったが、私たちはまだ担当ではなかった。
梅雨に入り、毎日のように雨が降る。
美化委員は傘立ての管理も任されており、乱雑にならないようきちんと整頓する。
その光景を見ている生徒たちは、大抵、整えてから傘を入れてくれるので、そんなに大変ではない。
朝、朝比奈君と傘立てのところに立っていると、「おはようございます」と声をかけてくれる生徒もいた。
でも、私たちは声を発することもできず、会釈で返すだけだった。
キンコンカンコーン。
登校も落ち着いた頃、チャイムが鳴った。
(急いで教室に行かないと…)
と鞄を肩にかけ、歩き出したその時――
ガタンッ
傘の柄にキーホルダーが引っかかり、パンダが飛んでいってしまった。
「あっ…」
朝比奈君は静かにそれを拾うと、こちらに向かって手を差し出す。
「可愛いパンダだね」
それが、私たちの初めての会話だった。


