孤独な先輩と空しか撮れない私の話。
朝の空気はほんのり甘くて、清々しかった。
卒業式の日に、「約束通り、またね」と言われてから、先輩から、連絡はない。
大学に入りたてで、忙しいのだろうか。
約束。
定かではないが、きっとあれの事。
見渡す限り一面がインシグニズブルーに染まった光景。
一輪一輪の花が風に揺らされて、華麗に舞うネモフィラ。
「花を撮るときはめしべにピントを合わせるといいよ」
先輩が前に行っていたアドバイスを思い出して、私はカメラを向けた。
花弁に小さな筋が何本も入っていて、しわしわの老齢の御婆さんの顔のようにも映った。
でも、集まればちゃんと綺麗で、心にあった閉塞感を取り出してくれる。
「凪ちゃん。久しぶり」
先輩はいつも通りのあの顔で、カメラをぶつけてきた。
「傷つきますよ」
呆れ半分、懐かしさ半分。
先輩は軽く頬を膨らませた私の顔にカメラを向ける。
清冽なほどに透きとおった青空とネモフィラを背景に、私の少し不貞腐れた顔。
いつものあの調子で、ネモフィラを観覧しているお客さんに声をかけて、写真を撮っていく。
「はい、もっと笑って。ハイチーズ」
ニカット口角を上げて、真剣な眼差しで被写体を見つめる。
私はやっぱり彼を撮りたい。
初夏の風に押されて桃色が少しずつ薄まっていく八重桜の下、私は彼にカメラを向けた。
灰色だった雲が、少しだけ解けて光を落としていた。
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