孤独な先輩と空しか撮れない私の話。
大きな入道雲が立ちはだかる空。
プールの水は冷たく、鱗のように一枚一枚ずつ揺れている。
バタフライで腕に跳んでくる飛沫は鋭く、白い。
写真部では丁度、夏のコンテスト応募期間が始まっていた。
モチーフは空。
けれど、あと7日だというのに納得のいく写真が撮れていない。
夏らしい瑞々しい空を撮りたいって思うのに、どこか私が撮った写真は静まり返って乾燥している。
「それも綺麗だと思うけどね」
先輩はそう言って、カメラを軽くぶつける。
「でもコンテストのお題は夏ですよ」
夏と言えば、そう、暑くて眩しくて賑やかなイメージ。
まるで私とはかけ離れている。
そして、先輩のイメージと合致している。
悩むことなく、先輩は運動部の友達の写真を何枚も撮って、その中で一番躍動感があって夏らしいものを選んでいた。
これが、模範解答だろうな。
でも、私にはそんな眩しい写真は撮れないし、フレームはずっと微睡みに沈んでいる。
このままで、納得のいく写真は撮れるのだろうか。
そんな不安がずっと胸の中に立ち込める。

「白川さんはコンクールの写真決まった?」
パソコン室に来ると、部長さんが話しかけてきた。
「いや、まだちょっと」
口ごもりながら、私のみ提出できていないことに罪悪感が疼き出す。
「先輩は夏ってどんなイメージですか?」
「暑くて、イベントもたくさんあって好きだよ。でも、少し怖いかな」
部長さんは緩く首を傾げて、制服のリボンを指に巻きつけながら呟く。
「怖い?」
「いや、怪談とかあるじゃん。私、お化け屋敷苦手なんだよね」
そっか。
夏は暑いだけ、じゃない。
「なるほど。ありがとうございます」
部長さんはまた首を傾げてしまった。

私は数学のノートの一番後ろのページを破り取って、書き出した。
夏。
プールがあって、祭りがあって、うるさくて、嫌いな季節。
だけど、海のせせらぎと大きな入道雲、風鈴が私は好き。
夏って、一色じゃない。
暑くて、眩しい以外にも、怖さや静けさ、沢山の色がある。
暑くて眩しい定番の、模範解答の夏じゃなくていい。
美しくて、静かな夏。
私は海に駆けた。
寂れた誰もいない海に光る白い太陽。
海と空の境界面を隠すかのように大きく浮かび上がる入道雲。
ザクザクと鋭い切込みの波間。
その音に鼓動を合わせて。
私はシャッターを切る。

「いいじゃん。凪ちゃんっぽくて」
一条先輩は提出したその白い光を見て、にかっと笑った。
本当の笑みか、作り物か。
その笑みは、なぜか遠い。

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