雨の降る日はジャズバーへ ――Cats that gather at night――
 私が黙っていたから、悩んでいると思ったのだろ「見惚れていました」とは言えないので頷いた。照明とジャズのせいなのか、微笑んでカウンターに立っている姿に色気を感じた。


 テーブルにシェイカーを置いて、長い指先で小さいメジャーカップを優しく包み込み、リキュールのパルフェ・タムールを入れた。スミレの濃い香りが広がる。

 香りを嗅いだ瞬間、別世界だと思っていた、ジャズバーの世界に入り込む。五感が研ぎ澄まされていくのが分かった。

 次に入れたのは、レモンジュース。そして、シュガーシロップ。スムーズに測って入れるのを見て、気持ちが良い。氷を入れ、ストレーナー(中蓋)を被せる。トップ(先端のキャップ)をして、目をつぶりながら凜と構えた。

 軽く一息吐くと「カシャカシャ」とシェイカーを刻んで少しずつスピードを上げた。まるでジャズとのセッションのような音は、高揚感に包まれ、期待が膨らんだ。

 トップを外すと、さきほどとは違う、爽やかなスミレの香りが立ち上がった。氷の入った冷えたグラスへ、氷に直接当てないよう、スムーズに注ぐ。

 透明な氷の隙間に液体が流れ込むと、氷は華やかなスミレ色に変わり、花を咲かせた。最後にゆっくりとソーダを流し込み、ステアをしてから、静かに目の前に置かれた。

「ヴァイオレットフィズです。特別な再会の時間を忘れないで欲しいと思い、愛を込めて作りました」

 テーブルの上にある照明が、ヴァイオレットフィズを照らす。スミレ色が「綺麗」と声が漏れるほどに私を虜にした。
 ひんやりしたグラスを、ゆっくりと口元に近づける。スミレの香りが近づく程、期待が高まる。

 ゆっくりと飲み喉を鳴らした。レモンの爽やかな酸味と、シロップの優しい甘さが口の中に優しく広がる。

 軽いシュワシュワした口当たりで、後味はスミレの香りが鼻に抜けて、スッキリした味わい。それはまるで、夜の雨上がりに咲くスミレの花のようだった。 

「初恋の味があるのなら、ヴァイオレットフィズはきっと恋の味でした。スミレの心を打つ香りが特別な一杯になりました。美味しかったです」

 レンは少し顔と耳を赤くすると「良かった」と照れながら微笑んだ。
 
 ママがレンに近づいて「レン……そろそろ歌う時間じゃない?」と問いかける。
 
 ハッとした顔になり「これから、歌うから聞いていって」レンは私にそう言うと、すぐに準備に向かってしまった。



 出会ったときは知らなかった。レンがジャズシンガーであることを……これがきっかけで私の人生が大きく変わることを……
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【読者様】 本作品は、長編『雨の降る日はジャズバーへ』の0章にあたるエピソードです。 ――例えるなら、本編の前日譚(0巻のような立ち位置)です。 この一作だけで物語として完結するように構成しましたので、本編を未読の方でも安心してお楽しみいただけます。 【歌詞の見所の紹介】 ・ストーリーに欠かせない、意味のあるオリジナルの歌詞を作って書きました。 ・作中の歌詞は全て私自身が作ったオリジナルですが、念のため、世の中に全く同じ歌詞がないかの確認や、英語の歌詞になっているかのチェックでAIは使用しています。 ですが、一文字一文字自分で作ってます。あくまで、チェックのみの使用なので安心してください。 ※これ以外のAI使用はありません。 【作者の制作経緯】 十代のときに私はジャズの世界を知り、ボーカル・ジャズが大好きになりました。 ですが、周りの友達にはジャズを好きな人はいなかったです。 「若い人にでもジャズの魅力を知って欲しい!」その強い思いで書きました。 ※登場するお酒を飲むキャラは、二十才以上です。 ※作者はお酒を飲んでいません。調べてから想像で書いています。 ※本作品はフィクションです。店舗名や歌詞などはすべて作者の想像によるものです。万が一、実在のものや他作品と類似している点があったとしても、意図的なものではありません。何卒ご了承ください。

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