雨の降る日はジャズバーへ ――Cats that gather at night――
 ◇◇◇

 チケットを大事に持って観客席に座る。
 ここの席はステージがよく見えて、特等席に思えるほどだった。

 今まで復帰をしてから、何度も見に行きたいことを伝えても毎回断られてしまった。だから今回が初めてで少しだけ緊張をしている。

 受付で貰ったパンフレットを確認すると、最初の一曲目が今日のステージでのみ披露する新曲らしい。それが理由なのか、大きなステージは全て観客で埋まっていた。

 ステージが青い光で照らさせると、黒のシュッとした服を着こなしたメンバーがステージに立った。久しぶりに見る姿の菫は、切なく愛しく感じる瞳で、僕を見つめながら話す。

「新曲歌います! The Path I Grabbed and Followed(私が掴んで進んだ道)」

 ピアノからは、寂しい感情を感じさせる音色がなり、次に、心臓の鼓動のようなドラムが心を揺さぶる。トランペットを高々と鳴らし、まるで別れを告げるように、ピアノの音を断ち切ろうとする。そして、別れの涙を流すようにベースが加わり鳴り響かせる。

 Before I met you, my heart was longing to run away.
(あなたに出会う前、私の心は逃げ出したいと切望していた)

 Then you came, on a rainy day.
(あの雨の日、あなたが現れた)

 Your smile so lovely, so reassuring.
(あなたの笑顔は優しく、私を包み込んでくれた)

 Now my sky is clear.
(今、私の空は晴れ渡っている)

 Every day with you, just like a dream.
(あなたと過ごす日々は、まるで夢のよう)

 But in this dream, my wish can never be.
(だけどこの夢の中では、私の願いは決して叶わない)

 I wake up now, to walk my own way.
(夢から覚めて、私は自分だけの道を歩き出す)

 No matter the pain, I’ll never turn away.
(どんなに傷ついても、もう二度と引き返さない)

 I’m leaving my love behind in the world of dreams.
(夢の世界に、愛する人を残していく)

 Goodbye, happy times.
(さようなら、幸せな日々) 


 それは別れと決意の告白に感じた。
 僕はただ、泣かないように必死に堪えて、最後まで目と耳に焼き付けた。一生忘れないために。

 ステージが終わると、すぐに会場を後にする。自分の中では、後悔を消し去ることは出来なかった。だけど大切な人の決意を否定することも出来ない。
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