笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

追跡

第24章 追跡

「朝比奈さん!」

私は社員証を握りしめたまま、二人の後を追った。

ホテルの廊下を駆け抜け、非常階段へ飛び込む。

階下から激しい足音が響いてくる。

「神崎! 下を頼む!」

「分かった!」

二人は別々の方向へ走り出した。

私は一人、踊り場で立ち尽くくす。

その時だった。

ポケットのスマートフォンが震える。

画面には非通知。

恐る恐る応答すると、機械で変えたような低い声が聞こえた。

「……白石琴葉さん。」

思わず息を止める。

「そこから動かないで。」

「あなたは誰なんですか?」

数秒の沈黙。

そして、小さな笑い声。

「知りたい?」

背筋が凍る。

「だったら、五年前の会議室へ行きなさい。」

そこで通話は切れた。

五年前の会議室――。

そんな場所があるのだろうか。

その時、上の階から朝比奈さんが駆け下りてきた。

「琴葉!」

私の顔を見るなり、表情が変わる。

「電話が来たの?」

「……どうして分かったんですか?」

朝比奈さんは答えなかった。

代わりに私のスマートフォンを見つめ、小さくつぶやく。

「やっぱり始まったか……。」

「始まったって、何が?」

そこへ神崎主任も合流した。

「逃げられた。」

悔しそうに拳を握る。

「でも、一つだけ分かった。」

神崎主任は私が握っていた古い社員証を見つめた。

「この社員証の番号……。」

主任は静かに言った。

「五年前に亡くなった社員のものだ。」

「え……?」

私は思わず社員証を落としそうになった。

「そんなはず……。」

亡くなった人の社員証が、なぜ今ここにあるの?

その瞬間、ホテル中の照明が一斉に消えた。

真っ暗な廊下に、非常灯の緑色の光だけが浮かぶ。

そして、暗闇の奥からゆっくりと足音が近づいてきた。

コツ……。

コツ……。

コツ……。

三人は息を殺して、その音のする方を見つめた。

暗闇の中に、一人の人影が静かに立っていた。
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