君島准教授、ちょっといいですか。

第4話 友達ができない学生

ここでお昼をひとりで食べるのは今週2回目。
一緒に授業を受けた子も、今日は別の友達とお昼を食べるらしい。
図書館前のテラス。
ここは少しほっとする。
私みたいにひとりの人もそれなりにいる。
ひとりでいることがそんなに目立たない。
だけど。
どうしても楽しそうに友達と話す人たちが目に入る。
楽しそうだな。
そう思ったとたん、パンがおいしくなくなる。

オリエンテーションの日に連絡先を交換した子がふたりいる。
一緒の授業なら一緒に座るし、話しかければ普通に話してくれる。
だけど、ふたりがけの席なら私は余る方。
一緒にいるだけ。
しかもふたりは同じサークルだから、お昼になると、
「ごめん、今日はサークルの子たちと食べることになってて」
と笑って手を振られる。
悪い子たちじゃない。
ただ、なんとなく居場所がない。
私だけ置いてけぼりになったように感じてしまう。
友達作るのって、
こんなに難しかったっけ?
小中高、今までいつの間にか仲の良い友達ができて楽しく過ごしてきた。
友達と映画行ったり、カラオケ行ったり。
恋バナで盛り上がったり。
この大学のオープンキャンパスだって高校の友達と来た。
都会の私大のキャンパスはきれいで、学生たちも楽しそうで、すべてがきらきらしていた。
頑張って勉強して、私もここで充実したキャンパスライフを送ろうって思った。
入学できれば私も仲間入りできると思ってた。
なのに。
どうして私はまだ、きらきらの外にいるんだろう。

大きく息を吐く。
カフェオレを飲もうとして顔を上げると、いつの間にか隣のテーブルに一人の男性が座っていた。
思わず目が止まった。
すらりとした男性が脚を組んで飲み物を飲んでいる。
ゆるいパーマのかかった長い髪はひとつに束ねられていた。
先生、かな?
あまりじろじろ見てはいけないと思いつつも、どうしても気になってちらちら見てしまう。
学生って年齢じゃなさそうだし、でも、先生っぽくもないし。
外部の人かな。
美容師とか?
デザイナーとか?
そんなことを思っていたら、その人と目が合ってしまった。
「ん?」
「あ、いえ、なんでもないです、すみません」
「なんかついてる?」
「あ、いえ」
体の前で勢いよく両手を振った。
……。
あ。
しまった。
せっかく話しかけてくれたのに。
このまま終わるのはなんだかもったいない気がして、小さく息を吐いた。
「あのっ」
「ん?」
「先生、ですか?」
「うん、一応」
「あ、」
そうなんだ。
先生なんだ。
「ん?」
「いや……先生っぽくないなと思って」
するとその先生は笑った。
「何に見えた?」
「美容師さん、とか」
「ああ、それたまに言われる」
先生は楽しそうにうんうんと頷いた。
「君は、1年生?」
「はい。え、どうしてわかるんですか?」
「雰囲気、かな」
「雰囲気?」
「うん、まだ大学に慣れてない感じ」
「あー」
授業とかには慣れてはきたけど。
「慣れない?」
「うーん……」
先生は首を傾げている。
どうしよう。
この先生なら話してもいいかな。
「……高校とは、全然違いますね」
「何が一番違う?」
「友達です」
「あー」
先生は少し頷いた。
「できない?」
「いえ、いるにはいるんです」
「うん」
「でも……」
次の言葉が出てこない。
「その子たちと一緒にいて楽しい?」
「……」
「気を遣う?」
私は小さく頷いた。
「私、高校では普通だったのに」
「普通?」
「友達もいて、毎日楽しくて」
「うん」
「だから大学でも普通に友達できると思ってました」
「うん」
先生は静かに頷いて、私の言葉をちゃんと受け止めてくれた。
大学にも、こんな先生いるんだ。
「君はさ」
「はい」
「高校では友達作れたんだよね?」
「はい」
「じゃあ君は友達を作れない人じゃない」
そう言って穏やかな笑顔を向けた。
胸がきゅっとした。
「大学ってね、4月にできた友達だけで4年間過ごす人ばかりじゃないよ」
「え?」
「ゼミだったり、実習だったり、バイトだったり。友達ができるきっかけって、意外と後から来る」
「そうなんですか?」
「僕はそういう学生をたくさん見てきた」
そう言うと先生は小さく頷いた。
そうなんだ。
先生は私みたいな学生をたくさん見てきたんだ。
私だけじゃないんだ。

先生は残っていた飲み物を飲み干し立ち上がった。
背が高い。
「あの」
「ん?」
「先生のお名前、聞いてもいいですか?」
「法学部の君島です」
そう言うと姿勢を正して一礼してくれた。
思わず立ち上がり、私も一礼する。
「あ、戻らなきゃ」
そう言ってさっそうと去っていった。
君島先生の背中を見送りながら、私は小さく笑った。


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