君島准教授、ちょっといいですか。
第5話 頼られると断れない学生
「ごめん、明日入れる?」
バイト先の店長が申し訳なさそうに私に手を合わせている。
ああ、まただ。
ため息が漏れそうになるのをぐっと堪えた。
わかってる。
誰も悪くない。
あの子、体調崩してしんどそうだったし。
人足りないのわかるし。
店長だってこんな申し訳なさそうにお願いしてるし。
だからいつもどおり、
「大丈夫です」
そう言うと、半泣きのような顔をしていた店長の顔がぱっと明るくなった。
「ほんといつもありがとう!助かるよ!」
店長は深々と頭を下げてくれた。
大学の図書館は静かで居心地がいい。
だけど本を開いても、昨日の店長の顔ばかり浮かんでくる。
今日は久しぶりにゆっくりできる日だったのに。
なのに引き受けちゃって。
バイトまでの時間をまたここで過ごしている。
ファミレスのバイトは嫌いじゃない。
ありがとうって言われると嬉しいし。
制服だってかわいい。
だけど。
スマホでシフト表を確認する。
いつも人がギリギリなんだよね。
来週ももし誰か急に休んだら、また頼まれちゃうのかな。
そんなことを考えているうちにだんだん瞼が重くなってきた。
……はっ。
寝てた。
え、今何時?
慌ててスマホを見る。
やばい!
慌てて荷物をまとめて図書館を出た。
バイト先に近い裏口へ向かう。
外へ出ようとした時。
ザーーーーッ。
うそ。
目の前は滝のような豪雨。
え、さっきまで降ってなかったのに。
その場に立ちすくんでしまった。
どうしよう。
これじゃバイトに間に合わない。
でもさすがにこの雨じゃ動けない。
おろおろしながらも。
まず、連絡。
スマホを取り出し、
『すみません。この雨で少し遅れそうです』
と慌ててメッセージを入れた。
送信ボタンは押したけど、画面から目を離せない。
店長、すぐに見てくれるかな……。
すると、すぐに既読が付き、
『了解!安全第一で!』
と返信が来た。
あ、よかった。
よかった、けど。
店長、絶対困ってる……。
だけど。
ザーーーーッ。
雨は弱まる気配もない。
バス停まで走る?
いや、この雨じゃ無理。
私は大きく息を吐いた。
すると、
「あぁ、やられた」
私と同じように空を見上げている君島先生がいた。
「君も?」
「はい……」
「急ぎ?」
「バイトで」
「間に合う?」
「さっき、店長に遅れるって連絡したところです」
「そう」
君島先生は雨を見上げたまま頷いた。
激しい雨音だけが響く。
気だけが焦る。
スマホで時間を確認する。
まだ2分しか経ってなかった。
「返信は来たの?」
「はい……安全第一で、って」
「優しい店長さんだね」
「はい。でも」
「ん?」
「店長、絶対困ってます」
「うん」
うっ。
そんなはっきり肯定されると辛い。
事実だからよけいに。
君島先生は少し首を傾げたまま黙っていた。
「……心配?」
「はい。今日、人少なくて。急きょ私が入ったのに」
「あー」
「なのに迷惑かけてしまって」
「うん」
君島先生は黙っている。
大きな雨音だけが響く。
「だけど」
先生は雨を眺めながら、
「君も困ってるよね」
と言って私をちらりと見た。
目が合う。
思わずそらせてしまった。
「君は店長さんのことばかり考えてるね」
「……」
「でも、君も困ってる」
「……」
「大雨なんだから」
「……でも、引き受けたのは私だから」
私は唇をきゅっと結んだ。
「うん」
君島先生は私を見つめ、
「君は約束を守ろうとしてる」
「はい」
「ちゃんと連絡もした」
こくりと頷く。
「それなら今日は十分じゃない?」
そう言って、小さく笑った。
「十分……」
「僕は、君にできることはもうやったと思うよ」
……。
そうなのかな。
私はまだ、店長の困った顔ばかり浮かんでいた。
気づけば雨は小降りになっていた。
「やみそうだね」
君島先生はのぞき込むように空を見上げた。
私もつられて見上げる。
「よかった」
「うん」
「先生、失礼します」
「はい。気をつけて」
「はい」
私は君島先生に軽く会釈をして校舎を後にした。
学生の後ろ姿を見送っていると、ポケットのスマホが震えた。
画面には「着いたよ」の文字。
「あ、僕も遅れたな」
小さく笑ってしまった。
バイト先の店長が申し訳なさそうに私に手を合わせている。
ああ、まただ。
ため息が漏れそうになるのをぐっと堪えた。
わかってる。
誰も悪くない。
あの子、体調崩してしんどそうだったし。
人足りないのわかるし。
店長だってこんな申し訳なさそうにお願いしてるし。
だからいつもどおり、
「大丈夫です」
そう言うと、半泣きのような顔をしていた店長の顔がぱっと明るくなった。
「ほんといつもありがとう!助かるよ!」
店長は深々と頭を下げてくれた。
大学の図書館は静かで居心地がいい。
だけど本を開いても、昨日の店長の顔ばかり浮かんでくる。
今日は久しぶりにゆっくりできる日だったのに。
なのに引き受けちゃって。
バイトまでの時間をまたここで過ごしている。
ファミレスのバイトは嫌いじゃない。
ありがとうって言われると嬉しいし。
制服だってかわいい。
だけど。
スマホでシフト表を確認する。
いつも人がギリギリなんだよね。
来週ももし誰か急に休んだら、また頼まれちゃうのかな。
そんなことを考えているうちにだんだん瞼が重くなってきた。
……はっ。
寝てた。
え、今何時?
慌ててスマホを見る。
やばい!
慌てて荷物をまとめて図書館を出た。
バイト先に近い裏口へ向かう。
外へ出ようとした時。
ザーーーーッ。
うそ。
目の前は滝のような豪雨。
え、さっきまで降ってなかったのに。
その場に立ちすくんでしまった。
どうしよう。
これじゃバイトに間に合わない。
でもさすがにこの雨じゃ動けない。
おろおろしながらも。
まず、連絡。
スマホを取り出し、
『すみません。この雨で少し遅れそうです』
と慌ててメッセージを入れた。
送信ボタンは押したけど、画面から目を離せない。
店長、すぐに見てくれるかな……。
すると、すぐに既読が付き、
『了解!安全第一で!』
と返信が来た。
あ、よかった。
よかった、けど。
店長、絶対困ってる……。
だけど。
ザーーーーッ。
雨は弱まる気配もない。
バス停まで走る?
いや、この雨じゃ無理。
私は大きく息を吐いた。
すると、
「あぁ、やられた」
私と同じように空を見上げている君島先生がいた。
「君も?」
「はい……」
「急ぎ?」
「バイトで」
「間に合う?」
「さっき、店長に遅れるって連絡したところです」
「そう」
君島先生は雨を見上げたまま頷いた。
激しい雨音だけが響く。
気だけが焦る。
スマホで時間を確認する。
まだ2分しか経ってなかった。
「返信は来たの?」
「はい……安全第一で、って」
「優しい店長さんだね」
「はい。でも」
「ん?」
「店長、絶対困ってます」
「うん」
うっ。
そんなはっきり肯定されると辛い。
事実だからよけいに。
君島先生は少し首を傾げたまま黙っていた。
「……心配?」
「はい。今日、人少なくて。急きょ私が入ったのに」
「あー」
「なのに迷惑かけてしまって」
「うん」
君島先生は黙っている。
大きな雨音だけが響く。
「だけど」
先生は雨を眺めながら、
「君も困ってるよね」
と言って私をちらりと見た。
目が合う。
思わずそらせてしまった。
「君は店長さんのことばかり考えてるね」
「……」
「でも、君も困ってる」
「……」
「大雨なんだから」
「……でも、引き受けたのは私だから」
私は唇をきゅっと結んだ。
「うん」
君島先生は私を見つめ、
「君は約束を守ろうとしてる」
「はい」
「ちゃんと連絡もした」
こくりと頷く。
「それなら今日は十分じゃない?」
そう言って、小さく笑った。
「十分……」
「僕は、君にできることはもうやったと思うよ」
……。
そうなのかな。
私はまだ、店長の困った顔ばかり浮かんでいた。
気づけば雨は小降りになっていた。
「やみそうだね」
君島先生はのぞき込むように空を見上げた。
私もつられて見上げる。
「よかった」
「うん」
「先生、失礼します」
「はい。気をつけて」
「はい」
私は君島先生に軽く会釈をして校舎を後にした。
学生の後ろ姿を見送っていると、ポケットのスマホが震えた。
画面には「着いたよ」の文字。
「あ、僕も遅れたな」
小さく笑ってしまった。