手を、つないで 〜ふたりの未来〜
5.茉歩
金曜日、彼から電話が来た。
『まず、ショッピングモールに行こうと思います』
「ショッピングモールですか?」
『はい。その後、家に行く流れで』
「わかりました」
13時に駅で待ち合わせ。彼が乗ってくる電車に私が乗って、一緒に行くことになった。
ショッピングモール、というのは、もしかしたら私の誕生日プレゼント……?いやいや、そんな厚かましい。何か彼が入り用な物があるのかもしれないし……でも、今日みたいな日にそういう買い物をするような人じゃないし……とりあえず行ってみよう。
電車を待つ間に考える。
彼の誕生日はまだ先だけど、プレゼントは何がいいんだろう。うわあ、わからない。彼が好きなもの……パソコン?無理……パソコンの周辺の、何か……それとも違うもの……思い付かない……まだ先だから、ちゃんと考えよう。さりげなく聞いてみて……。
考えているうちに電車が来た。1番前に、彼が乗ってる。吊り革につかまって、伸ばした手もかっこいい。顔が笑ってしまう。ああなんて言おう。おはよう、の時間じゃないし、こんにちは、もなんか変。
「今日、いい天気ですね」
困った時は天気の話。彼は頷いて、いつもみたいに周りから守るように誘導してくれる。安心して、彼の隣に立つ。
「ショッピングモールの、どのお店に行くんですか?」
聞いたら、彼は言いにくそうに口を開いた。
「あの……」
スマホを出して、操作する。
「ここに……」
画面に出ているのは、アクセサリーショップ。確か手作りのものを出している、小さいけど評判のいいお店。
「どう、ですか?」
どう、とは。
わからなくて彼の顔を見た。彼も私を見てる。無表情……じゃない、緊張してる顔。
「えっと……」
もしかして、プレゼント?彼の顔を見てたら、それ以外は考えられないと思った。
彼が焦ったように言う。
「あ、あの、誕生日プレゼントを、ここで、と思ってるんですけど、もし他のが良かったら別のところに……」
「え、いいえ、そんなことないです」
私も慌てて言う。
彼はホッとしたように息をついた。
「中森さん、普段こういうのつけてないから、どうなんだろって思ってたんで……」
ああ、確かに私は普段はアクセサリーはつけてない。
「もしかして、好きじゃないのかと……」
「いえ、そういう訳ではなくて……特に理由はないです。つける理由もないし、つけない理由もないです。あ、作業中は腕時計は邪魔なので外しますけど」
「それは俺もです」
同じだ。嬉しくて笑うと、彼も笑った。
こういう、『同じ』と『違う』を見付けるのが楽しい。こういうことを楽しめる自分を見付けるのも楽しい。
彼といると、いろんなことが楽しくて、嬉しくなる。
「じゃあ、あの、もし気に入るのがあれば、それをプレゼントさせてください」
また緊張してる、というよりは気張ってる方、かな?私も、彼の誕生日の時はそうなりそう。
彼に、なるべくリラックスしてほしくて、笑顔で頷いた。
お店は、ショッピングモールの2階にあった。女性服のショップに挟まれて、一見地味に見えるけど、それがいい雰囲気を出している。
ショーケースに飾ってあるのは、ネックレスと指輪のセット。四つ葉のクローバーがモチーフで、葉っぱのところに宝石が入ってる。緑色はエメラルド?小さいから、値段もそんなに負担にならないくらい……かな。彼にとってはどうなんだろう。
「入りましょうか」
並んでショーケースを見ていた彼が言う。
私だったら、彼へのプレゼントを選ぶ時に、値段を調べないなんてことはしない。それも込みでお店を選ぶ。
「はい」
余計な心配をするのはやめよう。純粋に喜んだ方が、多分彼も嬉しいと思うから。
私のために選んでくれたお店。
少し沸いてきたわくわくした気持ちを持って、お店に入った。
外から見てるより、中は広く感じる。居心地のいいカフェみたいな雰囲気。
一つのモチーフで、いろいろな種類のアクセサリーがあるみたいで、モチーフごとにディスプレイしてある。モチーフは、植物、動物、ビルや家などの建物、図形、と様々だ。
並んでいる順番に見ていたら、彼が立ち止まった。
ショーケースにあった四つ葉のクローバーと同じ形。でも色が違う。紫色とピンクの石が一つずつ、間に透明な石が入ってる。アメジストとピンクトルマリン、クリスタルクォーツって書いてある。
止まった彼の横に立つ。気に入ったのかな?
「誕生石ですよね、アメジスト」
「あ、そうです」
可愛いネックレス。いいかも、と思ってたら、店員さんがやってきた。
「どうぞ、お手に取ってご覧ください」
トレイに出してくれる。綺麗だな。
「アメジストは2月、ピンクトルマリンは10月の誕生石です」
「え、10月ってオパールじゃないんですか?」
「トルマリンもそうなんですよ」
店員さんがにっこり教えてくれる。
私は2月、彼は10月生まれ。2人の誕生石が入ってる。凄くいいかも。
ちょっと首にあててみる。
「どうですか?」
彼の方を向いたら、満足そうに笑う。
「似合ってると思います」
嬉しい。これにしようかな。
と、彼が違う物を指差した。
「これ、どうですか?」
見たら、指輪。ネックレスのクローバーが小さくなって指輪にくっついてる。
「これも可愛いですね」
「どうぞ」
すかさず店員さんがトレイに出してくれる。
右手の薬指にはめてみる。ぴったり。
「似合います」
彼もにこにこしてる。嬉しい。
じゃあこれか、ネックレスにしようかな。
「迷うなあ、どっちにしようかな」
呟いたら、彼が言った。
「どっちも」
え?
驚いて彼を見ると、にこにこは継続中。
「両方で」
デジャヴだ。少し酔った彼はこんな風ににこにこして有無を言わせなくなる。それと同じ顔。
お酒のせいでこうなるのかと思ってたけど、違ったらしい。押しが強くなる時にこの顔になるのか。
「え、でも」
「お願いします」
店員さんに両方差し出す彼。
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんは、もちろんにこにこでネックレスと指輪を持って奥の方に向かう。
彼を見ると、涼しい顔をしてる。
「ほんとにいいんですか?」
聞いたら、涼しい顔のままで頷いた。
「可愛かったです」
かあっと顔が熱くなる。そんな風に言われたら、何も言えない。
店員さんが、小さな紙袋を持ってきた。
彼が受け取って、そのまま持つ。うつむく私の顔を覗いて言う。
「渡すのは家で、でいいですか?」
笑顔に後光が差してるみたい。眩し過ぎる。
「はい……」
力無く返事する私の頭を、彼がぽんぽんとなでる。
お店を出る私達を見送る店員さんがとってもにこにこしてたのは、気のせいだと思いたい……。