手を、つないで 〜ふたりの未来〜

 彼の家に着くと、すぐにお風呂。彼が先に入って、次に私。
 私の入浴中に準備をしておいて、私が出たら『お祝いを開始します』とのことだった。
 どんな感じになるのか、予想しながら湯船に浸かる。そして、彼の誕生日にはどうしようかも考える。まだ半年以上も先だけど。
 お付き合い1周年記念と合わせてなにか……いや、彼の誕生日は誕生日でお祝いしたい。もうちょっと策を練ろう。

 ドキドキしながらお風呂を出た。洗面所から出る時には声をかけるように言われている。
「松永さん、お風呂いただきました」
 パタパタっと音がして、洗面所のドアが開いた。緊張してる顔の彼。
「どうぞ」
 今日はこの表情が多いな。普段はあんまり見ない顔が見られて、ちょっと嬉しい。
 連れられて、部屋に入る。
 いつもの部屋だけど、テーブルの上にたくさん何か乗ってる。
 ワイン、ピザ、サラダにオードブル、バゲット、それからケーキ。
「わあ……」
 色とりどりで綺麗。テーブルが黒だから、映えて見える。
「座ってください」
 ケーキの真正面に案内された。チョコレートケーキ。私がチョコが好きだから、多分選んでくれたんだと思う。
 ケーキの上にはクッキープレートがのってる。
『おたんじょうびおめでとう まほちゃん』
 まほちゃん……彼が、指定したんだよね。
 そう思って見ていたら、彼がもにょもにょと口を開いた。
「あの、ちょっと手違いというか、店の人が勘違いして」
 勘違い。どんな?
「ロウソクを、27本じゃ多過ぎると思って7本頼んだら、7歳の誕生日だって思われて、名前にちゃんをつけられて……」
 ああ、それで『まほちゃん』か。彼っぽくないと思ったら当たってた。
「交換しても良かったんですけど、店の人ににこにこして『娘さんですか?可愛いお名前ですね』って言われて……すみません、何も言えなくなってしまって……」
「いいんです。最近はこんな風に呼ばれることも少ないし。早苗ちゃんがふざけて呼ぶくらいで。社会人になると、下の名前でなんて呼ばれませんもんね」
「あー……」
 彼が黙ってしまった。私は焦って言う。
「あっあの、全然大丈夫です。可愛くて嬉しいです」
 彼が、私をじっと見る。なんだろう。私は更に焦って続けた。
「小学生の頃とか思い出しますよね」
 あはは、と笑ってたら、彼が口を開いた。
「……まほ、ちゃん……」
 ドキン、とした。
「……まほ……って、呼んでも……いいですか……?」
 まっすぐに、私を見てる。
「もちろんです」
 頷いた。
 彼は嬉しそうに笑って、私を抱きしめる。
「茉歩」
 全身に響いた。嬉しい。
 私も呼びたい。
 彼の背中をぎゅっと抱きしめた。
「……わたる、さん……」
 呼べた!何回練習しても声に出せなかったのに。
 顔どころか、全身が熱くなる。せっかくお風呂入ったのに、汗かきそう。
 ドキドキ鳴ってる胸をしずめようとして、彼ににしがみつく。
 小さな声が聞こえた。
「……まずい……」
 まずい?なにが?
「ベッドに行きたくて仕方ないです……」
「えっ」
「茉歩、が、悪い」
「え?」
「名前、呼ぶから」
「ええ……」
 呆然として力が緩まった。
 その隙に、というみたいにキスが降ってきた。熱くて深い。私も応えたくて、彼の服の袖をぎゅっと握った。
 彼が唇を離す。目が合った。
「もう一回。呼んで。茉歩」
 全身がドクンと波打った。いつか見た夢みたい。
「わ……航さん」
 彼が私をぎゅっと抱きしめる。そして、深く息を吐いた。
「あー……すいません。俺が悪い」
「え?」
「もっとさりげなくって思ってたのに、呼んでしまって。名前」
 さりげなく……ってどんな感じだったんだろう。でもどっちにしても、私はドキドキしてしまうに違いない。
 彼は力を緩めて、私と顔を合わせる。
 おでことおでこをくっつけて、照れながら笑う。
「まず、プレゼントから」
 照れてる彼が可愛い。私も笑顔になる。
「はい」
 ベッドはまた後で、になったみたい。ちょっとだけホッとした。



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