手を、つないで 〜ふたりの未来〜
6.航


「誕生日おめでとう、茉歩」
 小さな紙袋を渡す。
「ありがとうございます」
 彼女は受け取って、紙袋からケースを出した。パカっと開ける。
「やっぱり綺麗……」
 ネックレスと指輪。セットでおさまるケースに並んでいる。
 彼女の目がきらきらしている。はしゃいでる時に見る表情。こっちまで楽しくなる。
「あの……」
 ケースを俺に向ける。
「わ、た……航さんが、つけてください」
「え、俺が?」
「はい」
 にこにこしてる。できるだろうか。
「じゃあ……」
 ネックレスを手に取る。ええと、このフックを引っ張って……。
 彼女の首に手を回す。後ろは当然ながら見えない。
 そして、この体勢はまずい。また抱きしめてキスしてしまう。せっかく収めたのに。
 ひらめいて、留め金の部分を前に持ってくる。見えていれば、すぐにできる。ほら、できた。
 後は留め金を後ろにずらして……完成だ。
「やっぱり似合ってる」
 そう言うと、彼女が照れて笑う。可愛い。
「この色がいいなって思ってました」
「アメジストとピンクトルマリンですね。私と、わたる、さんの、誕生石」
「え、俺の?」
「今日、お店の人と話してたの聞いてなかったんですか?」
 そんな話してたか?
「あー……すいません」
 多分、俺が指輪を見付けた時だ。高井戸の『牽制』が頭の中で回ってて、聞こえてなかったんだろう。
「すぐ横にいたのに」
 何故かウケている。
「松永さんて、そういう時ありますよね」
 あ、戻った。言いにくそうにしてたなあ、名前。
「あ、えっと、わたるさん……」
 申し訳なさそうな表情が可愛い。
「こういうのは慣れだから、早く慣れてください」
 苦笑しながら言うと、彼女は頷いた。
「はい……」
「じゃあ、これ」
 指輪を手に取る。
 右手の薬指に指輪を通す。彼女の小さい手によく似合ってる。
「ありがとうございます」
 言って、指輪をじいっと見てる。また目がきらきらして、手をくるくる回して、いろんな角度から。
「指輪って、初めてです」
「え……」
「もらうのも、つけるのも。指輪、持ってないので」
 そうか……それは……凄く嬉しい。物凄く嬉しい。
 ああまずい、また抱きしめたくなってきた。
 代わりに頭をなでる。それから、手を取った。
「似合ってます」
 いつか、反対の手にも。そう遠くないうちに。
「嬉しいです。ありがとうございました」
 彼女が深々と頭を下げる。俺も倣う。
 顔を上げて、2人で笑った。
「普段でも、使えそうですか?」
 笑いが収まったところで聞いてみる。今回の裏ポイントみたいなところ。
「はい、派手な感じでもないし、大丈夫だと思います。でも、もったいないかなあって」
「そ……んなことないですよ。使ってくれたら、嬉しいです」
 一瞬言葉に詰まってしまった。『それは困る』と言いそうになった。俺だけの都合を押し付ける訳にはいかない。
「そうですか?じゃあ早速月曜日からつけちゃおうかな」
 えへへと笑う彼女。
「早苗ちゃんに、にまにまされそう」
「俺も、高井戸が生あったかい目で見てきそう」
 苦笑しあう。まあその2人は放っておけばいい。問題ない。
「とりあえず、乾杯しましょう」
「はい。ワインおいしそうで楽しみです」
 背の低いワイングラス。彼女と一緒に選んだものだ。それにワインを注ぐ。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
 もう何度目だろう。何度でも言いたい。今日だけじゃなくて、来年も、再来年も。
 軽くグラスを掲げて、同時に飲んだ。



「えっ、ピザのトッピング、航さんがしたんですか?」
「売ってるのに載せただけですよ」
「サラダも作ったんですよね?」
「作ったっていうか」
 カット野菜にトマトとアボカドを足しただけだ。ドレッシングは彼女の真似で、オリーブ油とレモン汁、塩を合わせたもの。味見をしたら、さっぱりしてておいしかった。
 ということを説明したら、ため息をつかれた。
「私より上手……」
 落ち込まれてしまった。
「そんなことは……」
「いいんです。前から思ってました。航さんの方が上手だなって」
 そんなことはない。
「茉歩のご飯はおいしい」
「え……」
「俺は好きです」
 言い切ったら、彼女の顔がぶわっと真っ赤になった。
「あの……ありがとうございます……」
「いえ……」
 つられて俺の顔も熱くなる。
「だからあの……これからも作ってください。俺も作ります」
 小さい声で、なんとか言った。
「はい……頑張ります」
 拳を握って、小さくガッツポーズを作る彼女。気張った顔。それもまた、可愛いと思った。



< 16 / 34 >

この作品をシェア

pagetop