手を、つないで 〜ふたりの未来〜


 そして2週間ほど経った。
「お待たせ……なんか、あった?」
 会社帰りに待ち合わせた駅のホーム、1番前。
 私の方が先に着いて待っていた。現れた航さんが最初に言ったのがこれ。
「え、別に何もありませんよ。なんか変ですか?」
 嘘。本当は、このまま航さんが来なかったらどうしようとか、そんなことを考えてた。
 だから、航さんの姿が見えた時、ホッとしていた。
「……いや、なにもないならいいんだけど」
 何か言いたそうだけど、それ以上は言わない。
 私も何も言わない。だって彼は前に言ってくれた。

『俺が中森さんを嫌うとか、ないんで』

 それは信じてる。疑うとかじゃなくて。
 幸せだと思えば思うほど、それがなくなった時にはどうすればいいのかわからない。どうして、自分がこう思ってしまうのかもわからない。
 彼にどうしてほしい、とかじゃない。ただ自分が不安なだけ。この不安をどうすればいいのか、わからない。

「茉歩」
 今日は、彼の家の最寄駅で降りた。前に行った中華屋さんのラーメンが食べたいと、私が言ったから。
 ラーメンはいつもと同じく絶品で、満足して店を出た。
 いつものように手をつないで、駅に向かう。
 彼が足を止めた。つないでいる手にきゅっと少し力が入る。
「やっぱり、なんかあった?」
「え……」
「仕事で、とか」
「いえいえ、ないですよ、なんにも」
「ちょっと元気ないみたいだけど」
「そんなこと、ないです……」
 尻すぼみになってしまった。こんなの、何かあるって言ってるようなものだ。
「茉歩」
 案の定、彼は真剣な顔。目が『話せ』って言ってる。ちょっと前なら怖いって思ってたかもしれないけど、今は違う。聞いてくれる優しさを感じる。
「あの、えっと、話すほどのことじゃないっていうか、これは完全に私のことなので、航さんに迷惑をかけられないし」
「迷惑じゃない」
 淡々と彼は言う。
「無理に聞くつもりはないけど、そのままにしておく気もない。ちょっとした愚痴でもなんでも、全然迷惑じゃない。茉歩のことならなんでも……」
 ハッとして、ごにょごにょになる。顔が少し赤くなった。
「なんでも聞きたいし、話してほしい……」
 私も恥ずかしくなる。同時に嬉しく思った。
 でも、本当に話していいのかな、こんなこと。めんどくさいって、重たいって思われないかな。
「……送るよ」
 私が黙ってしまったからか、彼はちょっと苦笑している。止めていた足をゆっくり進める。
「……すみません……あの……」
 とりあえず口を開いたけど、なにから話せばいいかわからない。言い淀んでしまう。
「無理しなくていい」
 声が優しい。
「話せる時でいい。話したくないなら話さなくていい。でも、茉歩が元気ないのはほっとけない。俺はなんでも聞くし、聞きたい。だから遠慮はしなくていい」
 流暢じゃない、どちらかというとポツポツに近いしゃべりかた。彼らしい。だから、本音だと感じる。
「話したくなったら、聞かせて」
「……はい」
 もうちょっと、自分の頭の中を整理してから。早めに。
 約束のつもりで、つないだ手に力を込めると、彼も応えてくれた。



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